「ドルで持っていれば安全」って、ほんと?
円安が進み、日本円がひとりしょんぼりと世界の片隅で縮んでいく中、多くの人がドル建て資産に飛びつく。
でも、その流れに少しだけ違和感を覚えてしまう。
ドルという通貨は、果たして“盾”なのか、それとも“刃”になることもあるのか。今日はそのことを、できるだけフラットに考えてみたい。
ドル建て資産の“二面性”
米国株、米国債、不動産ファンド。
近年の日本の個人投資家のポートフォリオにおいて、「ドル建て資産」は主役級の扱いを受けている。
理由は明快で、日本円では得られないリターン、そして米国の成長に対する期待がある。そこに円安が加わると、為替差益まで狙える。例えば$10,000(約150万円)で買った資産が、仮に価格がそのままでも円がさらに10%安くなれば、円ベースでの評価額は165万円になる。これは日本国内だけで資産を持つのとはまるで別世界。
一方で、これは裏返せば“為替リスクを全開で背負っている”ということでもある。円高に振れれば、米国株が上がっていても円ベースでは減る。つまり、ドル建て資産とは“攻め”であると同時に“裸”でもある。
為替は、金利の顔色をうかがう
そもそも為替というのは、通貨同士の「相対的な信用」を測る体重計のようなもの。
そしてその信用に大きく影響を与えるのが、各国の金利政策。
たとえば2022年以降、米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレ抑制のために利上げを繰り返し、一時は5%を超える政策金利を維持していた。
これは日本の金利とはまるで次元が違う。
世界中のマネーは、当然のように米ドルに集まり、円は相対的に売られる構図になった。つまり、ドル高・円安はほぼ“金利差の写し鏡”と言える。
ただしこれは永遠に続くわけではない。
FRBが利下げに転じれば、逆回転が起こる。いわゆる「円高圧力」だ。だから、為替とは“金利の気分屋”であり、投資家にとってのボラティリティの根源でもあるといえる。
ドル高が続くと、何が起きるのか?
ドル高は、表面上は円ベースでの評価益を生む。だから喜ばれる。だが、それが長期化するといくつかの問題も生まれる。
まず、米国企業の決算が圧迫される。AppleやMicrosoftのようにグローバルに展開する企業にとって、ドル高は“売上の目減り”を意味する。たとえば欧州で100ユーロ稼いでも、それがドル換算で縮んでしまう。結果として、ドル高は米企業の業績見通しに暗い影を落とすこともある。
もうひとつは、米国の輸出競争力の低下だ。輸出商品が相対的に“高く”なるため、製造業にとっては逆風となる。したがって、ドル高が長く続きすぎると、いずれ米国経済そのものが減速し、FRBが再び利下げを検討するという“循環”が始まる。
為替リスクにどう向き合うか?
ここで多くの人が抱える問いが出てくる。
「為替リスクをどうコントロールすればいいのか?」
答えはひとつではないが、代表的な方法は以下の3つ。
1つ目は、為替ヘッジ付き金融商品を使う方法。これは“円に戻したときの価格変動を抑える保険”のようなもの。ただし、保険には当然コストがかかる。米金利が高い局面では、このヘッジコストが年率4〜5%に達することもある。
2つ目は、長期保有で為替ノイズを薄めるという考え方。これは、為替の上下は中長期でならすと“平準化される”という仮説に基づく。過去30年のドル円相場が、概ね100〜150円の間を揺れ動いてきたことを思えば、一定の説得力はなくはない。
3つ目は、生活通貨とのバランスを取ること。日本で生活し、日本円で消費するなら、すべてをドル建てにするのはリスクが高い。逆に、将来的に米国移住や留学、国際支出を考えている人にとっては、ドル建て比率を高めることが“リスクヘッジ”になる。
ドルは光と影
ドル建て資産を「盾」と表現する人の言葉に時々ひっかかる。
たしかに、円安の今は盾のように見える。でも、風向きが変われば、それは意外にも鋭利な刃になって、ポートフォリオに深く食い込む。
大切なのはドルの“表と裏”をちゃんと知った上で向き合うこと。米国という成長エンジンに連動する魅力的な市場である一方、通貨の力学は常に我々の背後で、静かに動いている。
それを“見ないふり”をするのではなく、理解し、敬意を持って接すること。そう思って、今日もチャートとにらめっこしている。




