今日は、ひとつの都市伝説のような話から始めたい。
「Elon Muskの年収は1ドル」
「Steve Jobsもかつて年収は1ドルだった」
…このフレーズ、どこかで聞いたことあるよね?
一見するとストイックなヒーロー物語のように見える。「報酬?そんなものいらん。世界を変えることが目的だから」とかなんとか言いそうな雰囲気のやつ。
でも現実は、もう少しドライで、もう少し合理的。
これは税制と株式報酬の、ちょっとした“抜け道”の話。
給料1ドルの真実、それは「建前」
まず大前提として、年収1ドルというのは法律上の最低限の給与額。これを下回ると「給与が無い=労働者ではない」とされ、企業との契約関係が成立しなくなる。だから1ドルだけもらっておく。文字通りの“最低限の線引き”。
では本題。「なぜ彼らは実質的にタダ働きするのか?」
答えはシンプル。本当の報酬は株式だから。給与所得には高い所得税がかかる。たとえば年間1,000,000ドル(約1.5億円)の給与を受け取れば、その半分近くが税金として消える。一方でストックオプションや自社株は、売却まで課税されない上に、長期保有すればキャピタルゲイン課税で済む。アメリカでは最高でも20%程度。
言い換えれば、「現金は取らず、資産としての株を受け取って、会社が成長すれば自分の報酬も爆増する」
という、究極のインセンティブ・スキーム。
Elon Muskの“1ドル”と数十億ドルの報酬
TeslaのElon Muskが1ドルの年俸を選んでいるのは有名だけど、では彼の報酬がそれだけかと言えば、もちろんそんなわけがない。
彼が受け取っているのは、目標達成型のストックオプション。
たとえばTeslaの時価総額が一定額を超えるごとに、何百万株という自社株を取得できるようになる。
その評価額は、目標がすべて達成された場合、約50Bドル(約7.5兆円)にもなると試算されてる。
これが成立する背景には、株主の期待と“成功報酬主義”がある。会社が爆発的に成長すれば、それに見合う報酬を支払っても誰も文句は言わない。いや、むしろ「もっとやれ」と応援される。
Steve Jobsの1ドルと「個人資産の真実」
Appleに復帰した1997年、Steve Jobsも1ドルの年俸を選んだ。当時のAppleは経営危機にあったが、彼はそのカリスマで再建を成し遂げた。
では、彼が本当に報酬を受け取っていなかったのかというと、もちろんそんなわけはない。
彼は復帰に際してAppleから巨額のストックオプションを付与されてた。さらに、Appleの株価が回復するにつれ、その資産価値は飛躍的に膨れ上がった。
Jobsの資産の大半は、実はApple株ではなくPixar株だったというのもまた面白い話だが、それはまた別の機会に。
1ドルという“演出”と“合理性”
結局のところ、1ドルの年俸はパフォーマンスであり、同時に究極の合理主義だ。
彼らは、現金を受け取るよりも、企業価値の向上を自分の報酬に転化している。
そしてそのスタイルこそが、株主と経営者が同じ方向を見る「長期主義」の象徴ともいえる。
「自分の報酬は、未来の株価で決まる」
そう言って、笑って1ドル札を受け取るCEOたち。
彼らの背中には、時に賛否が付きまとうが、彼らの合理性と美学を少しだけ尊敬してしまう。


