に提供したことがある。それは某アメダス露場内の支柱(風・気温・日照・雨など
の測器を設置してある金属製の柱や櫓のこと)どうしの間に、洗濯バサミ付の
“物干し竿”が架けられたショッキングなものだった【下参照】。どうやら日当たり
の良い露場は、一部住民にとって格好の“物干し場”として利用されていたようだ。
露場内は進入禁止であるから、このような行為は気象業務法に違反している
恐れがあり厳に慎まねばならないが、その舞台こそ他ならぬ大井沢アメダス
だった。防護柵が無い(取材時)アメダスの露場内は、(しようと思えば)物干し場
にも、近道にもなったことだろう…
その後、大井沢アメダスは「気象測器の配置替え」が行われ、物干し竿の類を
架けることは出来なくなっている。今回の“巡礼16”では、この配置替えの理由
も含めて解説する。
■気象庁の積雪観測所では代表的豪雪地のひとつ
山形県西川町にある大井沢アメダスは、気象庁設置の地上気象観測所では常に上位に入る豪雪地として“お馴染み”だが、その最大積雪深は2000年3月
1日に観測された348cmとなっている。この豪雪に対応して同アメダスの雨量計
や温度計は4m以上の高所に設置されている。
【↑図.1】
“豪雪”と聞くと、我々には平成18(2006)年豪雪が記憶に新しいが、記録的に
はH18年の最大積雪深が観測史上1位という観測所は意外に少ない。
■アメダスの配置替え…露場のビフォー・アフター
江戸時代に「出羽三山の登山口」として栄えた大井沢は、山河がとりわけ美しく、県の内陸と沿岸の中間に位置することから、筆者はしばしば大井沢アメダスに
も立ち寄っている。無辺際かと見紛う寒河江川河畔の広大な土地が展開する
大井沢にあって、そのアメダスは『まるでウナギの寝床』のような集落内の狭い
土地に押し込められていた。
露場は、猫の額のような狭い畑や住家・樹木に隣接しており、一見して気象
観測には不適格なフィールドであることが見て取れた。北風は樹木によって
遮られ、雪は水平には積もらないはずだ。唯一の救いは、露場の地表が
「自然の草地」だったこと。その露場で移設(配置替え)が行われたのは2009年
のこと。移設完了後の露場は『防草シート』を張るだけの状態になっていた。
移設前、大井沢アメダスの気象計は2本の支柱と1つの櫓に設置されていた。
移設後はそれが1本の支柱と1つの櫓にまとめられ、露場内はスッキリした(→
これによって“物干し竿”の使用は不可能となる)。
■アメダスの配置替え…気象統計のビフォー・アフター
念のため確認しておくと…大井沢アメダスの移設は「配置替え」であり、アメダスの露場(所在地)が移動したわけではない。現場の気象計を見ると、積雪深計と
日照計については測器が“更新”されており、移設前後のデータは不連続となる。
一方、雨量計・温度計・風向風速計については、従来のものを“継続”使用して
いるので、この程度の移設では不連続とはならないだろう。勿論、気象庁も「連
続」として取り扱っている。
では、大井沢アメダスの「気象統計」はどうなったのだろう。このうち年平均気温
と年平均風速の推移(1984~2015)は以下のようになる。
グラフを見れば何のための移設(配置替え)だったのか?が、よく判ると思う。
再び上掲の「図1」を見てもらうと画面奥に樹木が見える。移設前、風速計と温
度計を設置した支柱は、この樹木の間際に在ったのだ。このため、風速値に
ついては、樹木の成長に対応するように漸減し、移設によって飛躍的な増加に
転じた。※なお『樹木の成長に対応した風速値の漸減』については、既に高峰
アメダスの回で詳述している。
【参考】グラフに施した移設の「赤線」について… 統計の都合上2008/09年の間に引いたが、実際の移設工事は2009年9月上旬に実施されている。移設に伴い、風速計は北側を塞いでいた樹木から遠ざかり、結果として9月中旬以降の北よりの風を以前より『よく拾う』ようになった。 2009年の平均風速値:0.8m/sは、「移設前8.3か月分のデータ」と「移設後3.7か月分のデータ」から算出されている。
観測統計に「これほどのギャップ」が生じているにも関わらず、気象庁は移設
前後のデータを『連続しているもの』として取り扱っている。「ここから先は利用
する側の責任において…」という示唆でもあるのだろう。
■そもそも風向風速計の設置環境とは?
気象庁が発行している『気象観測ガイドブック』によると、風向風速計の設置に際して考慮すべき事項として…
A.最寄りの建物や樹木からその高さの10倍以上の距離を置いて設置B.周辺の建物等より高い位置に設置…などが明記されている。Aに倣えば…例えば樹高が10mとすれば風速計は
そこから100m離す、Bに倣えば…例えば測風塔では最も高い建物の1.3~
1.5倍以上の高さ、などが目安になるらしい。
ただ、同書に記された設置環境の項目には、「一般的に…」とか「…目安」など
といった「ゆるい表現」が目立ち、却って実現可能性の低さを暗示している。
事実、大井沢アメダスの風向風速計は、移設前は勿論のこと、移設後(現行)
の設置環境でも風観測には不適格なフィールドと言わざるを得ない。
更に、風観測に不適格ということは、風の影響を受けやすい「積雪深観測」に
も「吹き溜まり」や「非水平」などの“悪影響”を及ぼしている可能性が高いこと
になる。
但し、特にアメダスの場合、観測不適格の責任は必ずしも管理する気象庁側に
ある訳ではない。問題の本質は、血税を用いた国の観測業務に対して、こんな
ウナギの寝床のような土地しか提供しない地方公共団体側の無理解にある。
第一、観測の重要性を理解している者であれば、そのフィールド精査への「自ら
の怠り」は許さないはずだ。
…其々のアメダスには「其々の経緯」があり、それが巡礼の目的でもある。
〔最終更新:2016年2月12日18:30〕
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■アメダス巡礼…県別の索引■〔★:移転の履歴が確認できたもの〕
◇宮城県(管理:仙台管区気象台)◇
・志津川(シヅガワ)
・亘理(ワタリ)★
◇福島県(管理:福島地方気象台)◇
・喜多方(キタカタ)
・桧原(ヒバラ)
・船引(フネヒキ)
・梁川(ヤナガワ)←『伊達(梁川)が福島より暑くなる時…』
◇新潟県(管理:新潟地方気象台)◇
・下関(シモセキ)★
・村上(ムラカミ)
◇山形県(管理:山形地方気象台)◇
・左沢(アテラザワ)
・大井沢(オオイサワ)★
・小国(オグニ)
・尾花沢(オバナザワ)★
・高峰(タカミネ)
・鼠ヶ関(ネズガセキ)1★
・鼠ヶ関(ネズガセキ)2★
・鼠ヶ関(ネズガセキ)3★
・肘折(ヒジオリ)
・米沢(ヨネザワ)★
◇巡礼特論◇
・“アメダスの移転”と微気象(スピンオフ下関アメダス)
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