今回は音楽について。

 

春になってから、また七尾旅人聞き出してる。

リリースされたものすべて好きだけど、やっぱりこの1stが狂おしいほど好きだ。

 

けっこう小さいときから音楽は特別なものだったんだけど、本格的に色々聞き出すようになったのは中学時代から。

そのときには、ヒップホップのビートのマッチョイズム、それにあらゆる文化を包括して昇華することのできる懐の深さに惹かれたんだ。踊れる現代音楽とは本当によく言ったものだと思う。

 

急に最近の話になるけど、Pete Rock & C.L. Smoothの「The Main Ingredient」が一番最初に買ったヒップホップのCDだったんだけど、ホント最近、1ヶ月以内くらいの話なんだけど、彼らのコンビを大阪で見る機会があったんだけど、最高にクールで涙が出そうだったな。一番最初に感銘を受けたものが目の前で、それも全盛期と全く遜色なくて本当に痺れちまったよ。

 

そんで、高校入学くらいのときにはそりゃもう色々多種多様に地域人種関係なくビートジャンキーみたいな生活してた。その中でこの七尾旅人の1stに出会った。

 

そういえばそのときちょうど、中村一義の「金字塔」を頭おかしくなるくらい聞いてた時期で、どうやら自分は宅録の濃ゆいポップスが好きなんだろうな、となんとなく好みがわかってきた時くらいに、誰かのつぶやきででこのアルバムを見つけた。

 

確か、Charaの影響大のウィスパーボイス宅録ポップスっていう触れ込みだったような気がするけど、細かいことは忘れた。カヒミ・カリイみたいな感じだったら最高だな、くらいに思っていたような気がする。

 

当時住んでいたところはタワーレコードが近くに無くて、これを手に入れるのにけっこういろんなところ探しまわったような記憶がある。

 

やっと手に入れてから、ずっと聞いていたような気がする。

初めて聞く音楽に触れる時って、なんか疲れるんだよな。そこで響いているものをできるだけ逃さないように集中して聞こうとするから。だから僕にとって音楽は別に目新しいものでなくていい。どこか聞いたことあるような音楽のほうが、初めて聞くときには、自分の過去のアーカイブと照らし合わせられるから、聞いてて楽なんだ。

その点、これはだいぶ慣れるまでに時間がかかったように思う。

 

12曲収録されてるんだけど(そのうち最初の1曲はイントロっぽい小品)、どれもそれまで聞いた音楽には当てはまらなくて。それでいてめちゃくちゃわかりやすいポップスじゃないじゃん、これって。だから、聞き始めて1週間くらいはよくわかっていなかったように思う。

それでも、ある日、なんだかよくわからないそのモヤモヤしたものが急に反転して、イヤホンをつけていないのに頭の中で音楽が止まらなくなっちゃってさ。そこから今日に至るまで日本の音楽の中でも指折りなくらい好き。

 

その当時はアップルミュージックのようなストリーミングの音楽は無かったから、聞きたいものを聞きたいときに聞くんじゃなくて、あーあ、これ買っちゃったけど、金もったいないからなんとなく聞いとくか、みたいなことが多かったわけで。この時期の買ってきたものをとりあえずもったいないから聞くみたいな姿勢がわりと今でも結構変な音楽にも抵抗なく耳を傾けるようになれた修練期間だったように思う。

 

そうそう、自分の話はこれくらいにしといて、この「雨に撃たえば...![Disc 2]」なんだけど、まず、タイトルが最高にイカすよな。1stアルバムなのにDisc 2って。どうやら七尾旅人、彼自身の家にDisc 1はあるんだけど、Disc 2のほうが出来が良かったからこっちをタイトルもそのままにリリースしたらしい。

 

どの曲も聞きすぎて、正常な判断ができないんだけど、一曲目の「最低なれピンクパンク...!」からもう最高で、クラシカルなストリングスが鳴り続けながらも、突然、エイフェックスツイン顔負けのドラムンベースが始まったりしていきなりもうカオス。

このころの七尾旅人の歌唱法も聞き取りづらい上に歌詞も単語を断片的に並べた意味不明でナンセンスっぽいものになってるんだけど、これがかなりエモーショナルで最高に良い。直接的なストーリーテリングではないんだけど、抑えられない感情を無理に言語化したみたいで、この曲に限らずどの曲も歌詞が素晴らしい。世界中どこを探しても見つからないような言語感覚。

 

このアルバムに収録されている曲はどれも大好きなんだけど、特に「ココロはこうして売るの(2)」、「ガリバー2」、「コーナー」と「左腕◇ポエジー」がめちゃくちゃ好きだ。

 

「ココロはこうして売るの(2)」はシューゲイズアレンジの全編フィードバックノイズにまみれたカオスな曲で、ブックレットによるとどうやらこの曲はレコードビジネスと関係なしに制作されたらしい。っていうかレコードビジネスを視野に入れて制作された曲がこのアルバムに収録されているのか。そっちのほうが驚きだ。

(2)と表記されているけど、アレンジ違いがシングルの「おはよう...!ボンテェジ・サイボーグ」に収録されていて、こっちはシューゲイズ要素が少なめ。

 

「ガリバー2」はこのアルバムの中で一番好きな曲なんだけど、10分を超えるめっちゃ長い曲。ものすごいリバーブのかかったギターが鳴り響くスロウなサイケソングなんだけど、これがほんとうにもう素晴らしすぎて。Curtis Mayfieldの「Move On Up」と並ぶほどの名曲だと勝手に思ってる。10分間で1秒も無駄な瞬間がない。小沢健二の「天使たちのシーン」や川本真琴の「FRAGILE」に並ぶ日本の音楽における長い曲の最高峰だと思う。

 

「コーナー」はこのアルバムの中では「萌の歯」と並ぶほどかなりポップでわかりやすい曲なんだけど、それでもどこか常におかしくて。普通にめちゃくちゃかっこいいんだけど、歌詞がやっぱりおかしくて、J-POPっぽい感触はかろうじて残っているんだけど、歌詞のそれぞれが一行詩から成り立ってるみたいなどこか断片的で聞き手の感情移入の余白を排した印象さえ受ける。そこがめちゃくちゃエモいんだけど。

 

 

わりと最近の曲である「TELE○POTATION」の原型っぽい。これも最高にかっこいい。

 

 

 

このアルバムのラストを飾る、「左腕◇ポエジー」も「ガリバー2」と並ぶくらい大好きな曲なんだけど、これももう最高すぎて、どこかノスタルジックなメロディにナンセンスと表裏一体のポエジーな詩、七尾旅人の天使みたいな歌声と相まって相変わらずカオスなんだけど、最高の一曲に仕上がっている。個人的にはこの曲のメロディーラインが一番冴えてるように思う。今までの曲に比べて一番ポップソングの型にハマっているからかな。これで締めるのは卑怯だな、とこのアルバムを聞くたびに毎回思ってしまう。

 

音源もカオスで相当凝ってるんだけど、ブックレットのほうも手が込んでいて、歌詞がすべて手書きで一曲一曲に合わせて、字体やペンまでも変えてこれも素敵。以降の七尾旅人のアルバムにはこんなことはないから、この一枚にものすごい熱量と執念が込められているのがわかる。実際熱量すごいし。それでいてどこか冷め切った雰囲気も併せて持ち合わせているから好きなんだよな。「左腕◇ポエジー」なんかはまさにそうだし。

 

精神分裂症的初期七尾旅人はこの後三枚目の「ひきがたり・ものがたり Vol.1 鉢雀」まで続くんだけど、それ以降はアコーステックギターでのアレンジが多め。歌い方ももう完全に変わってしまったから、もうこの頃の七尾旅人を聞けることは無いんだろうけど、マジで最高だ。

「911FANTASIA」以降の七尾旅人ももちろん好きだけどね。現時点で最新作の「リトルメロディ」もかなり好きだし。それでももう絶対に帰ってこないということもあるからかもしれないけど、やっぱり初期七尾旅人の感情でグッチョリ浸された捻れたポップソングが大好きだ。ただこのことを言いたいだけなのに、どうでもいいことを書き連ねているうちに長くなってしまった。

 

この次のアルバムである「ヘヴンリィ・パンク・アダージョ」も35曲(!)収録されている大名盤なんだけど、世界中どこを探してもこのころの七尾旅人みたいなミュージシャンはいない。


天使が作った音楽みたいだ。