ノスタルジア(1983年 126分)

監督:アンドレイ・タルコフスキー

出演:オレグ・ヤンコフスキー、エルランド・ヨセフソン、デリア・ボッカルド、ドミツィアーナ・ジョルダーノ

 

タルコフスキーの映画ってめちゃ眠たくなるから見るのには結構な勇気と精神力がいるんだけど、奇跡的にその両方のコンディションが良かったのでノスタルジア見た。

 

 

タルコフスキーの映画、結果的に好きなんだけど、サクリファイスは全部見るまでに3回くらい寝ちゃったりしてどうしても両手を挙げて好きとは言えない監督だったんだけど、このノスタルジアは最高だった。

 

どう最高だったかというと、まずここで自分に起こった出来事を話しておく。

 

3ヶ月くらい前、人生で最高の目覚めというものを経験した。

その朝の前日は正直言うとあまり行きたくない飲み会みたいなものでしこたま酒を飲まされて意識が朦朧としていたように思う。帰宅するとそのまま疲れ果てて、風呂も入らずに夜中の1時過ぎ頃、泥のように眠った。

普段日記をつけているんだけど、それによると完璧な朝はどうやら2016年12月28日の7時48分にはすでに訪れていたらしい。

この日記によると

 

2016年12月28日7時48分、死ぬほど清々しい朝だ。今の気温も服装も少し酔の残った動かしづらい身体も俺自身の顔つきさえも完璧なように思える。完璧な朝。ヘヴンリィ・パンク・アダージョ。

 

7時56分、最高の陽射しが人生で最高の自己陶酔を迎えた俺に突き刺さる。部屋が異常に明るく感じる。なんだか今日の俺は最高に調子がいい。言葉が溢れてくる。身体一つじゃこの気持ちを伝えきれない。ついて溢れ出る言葉は繊細な一行詩みたいだ。肉体の隅々から俺の思想が溢れだして止まらない

 

この後どうやら俺(果たして当時の俺を俺と呼んでいいのかと思えるくらいに現在の状況とは乖離しているが)は音楽を聞き始めたらしく、日記の続きには、

 

8時11分、良い音楽に包まれて過ごす生活は、生活に必要な偏差値をぐっと高める。

 

素敵な音楽を家で聞いている時の宇宙は俺のもの。

 

とかなり倒錯した日記の内容であることは間違いないんだけど、この映画を見ているとき、ありありとその感覚を思い出して高揚感が止まらなかった。

薄明るい画面作りも、その朝のやけに明るい視界みたいなものを完璧に思い出したし、この映画で登場するワンカットワンカットがやけに絵画的で荘厳なのも、その朝の錯乱状態と極度の興奮状態が合わさったトランス状態で見る自分の部屋の中の景色と同じものを感じた。

 

この映画を見ている間中、ああこの感覚は(完璧ではないし原体験には劣ってしまうけれど)恣意的に引き出すことは可能なんだ、と他人の創作物を見たり聞いたり触ったり感じたりする上で一番根源的であり、最上級の喜びみたいなものを感じた。

 

それでも内容は冷静に考えてみると一度見ただけではなんだかよくわからなかったし正直後半は眠たかった。

 

ほとんど映画に触れずに自分のことばっかり馬鹿みたいに書き連ねてしまったけれど、何か過去に自分の身に起きた経験を呼び起こすような創作物と出会うことは、時間を見つけて様々な媒体で多種多様の創作物にアクセスしているけど、本当に滅多に出会うことはないので忘れられない大事な一本になってしまった。

ノスタルジアというタイトルも超個人的にはこの映画に相応しいものだと思う。

 

遠く離れたロシアという国で30年以上前に生み出されたこの映画にノスタルジアを感じているのはなんだかとても奇妙で恍惚とした感情だ。

 

この映画を何度も繰り返し見ていくうちにあの朝の素敵な経験も希釈されて最後にはなくなってしまうと思うとなんだか少し悲しい。

 

A+