青い手紙 20
黒の礼服を着ている私を怪しむ者はいなかった。私の目から見れば、葬儀の参列者は決して少なくはないと思うのだが、大企業の元会長の葬儀としては参列者は少ないのだろう。しかし、故人の身近にいた人々だけでの葬儀にしては、参列者は多かった。
私は、喪主であるべきはずの畠山純一の姿を探した。もちろん、私は彼とは一度も面識がなかった。誰が畠山純一なのかは分からなかった。おそらく、記帳した参列者の一人一人に頭を下げている人物が畠山純一だろうと思われるのだが、あるいは、彼は、実子の畠山修二なのだろうか。
いよいよ出棺の時がきて喪主の挨拶が始まった。喪主は、参列者に頭を下げていた人物ではなかった。喪主は故人の実子の畠山修二だった。
私は、彼の声を注意深く聞いた。どこかに聞き覚えがあるかも知れないと思ったからだ。死亡していたはずの畠山義男からかかってきた電話の声と、畠山修二の声質に似たところがないだろうかと、記憶の中の声をたどりながら聞いた。
記憶の中の声と、畠山修二の声質は別物のように思えた。しかしそれは、私がそう感じただけで、実際のところは分からない。誰だって、生気のない老人の声のトーンを真似ることはできるかも知れない。
喪主の畠山修二の挨拶が終わった時に、背後で誰かが私の名前を呼んでいるような気がした。参列者の中に私を知っている者などいないだろうから、何かの聞き間違いだろうと思ったが、その声は間違いなく私の名前を呼んでいた。
私は、声のする方に振り返った。そこには、喪服を着た女性がいた。畠山純一の家のメイドのようにも思えたがよくは分からなかった。