青い手紙 18
「神上さんですね」と、低い声で受話器の向こうの相手は言った。
こちらの状況など考えずに、勝手に誰かが私に連絡してくる。
「はい、そうです」私は営業用のトーンの声で答えた。
「フリージャーナリストの野中と申します」と、相手は言った。
私は6秒間、脳の海馬を活動させて、記憶をたどったが、野中という名前のフリージャーナリストの知り合いはいなかった。
「人違いです。野中さんという知り合いはいませんね」と私は無表情なトーンの声で言った。
「私も、あなたとは知り合いではありません。ただ、少し気になることがありまして、お話を伺いたと思いまして」
「話すことはありません」そう言って、私は電話を切ろうと思った。
「あなたは何かを隠している」と、相手が少し強い口調で言った。
「隠しているとは?」
「私だって、ジャーナリストの端くれですよ。私は畠山さんがただの病死だとは思っていない。ヘルパーの女性にも取材しました。第一発見者であるあなたは何か重要なことを隠しているんじゃないかと私は感じたわけです」
7秒間、沈黙があった。
「ヘルパーの女性が何か言っていたということ?」
「何か?確かに彼女は何かを話したけど、私が知りたいことは話さなかった。私が知りたいことはあなたが知っているはずだ」
「あんたも、ジャーナリストだったら、守秘義務があることくらい知っているだろう。依頼人の不利益になることは話さない。たとえ、依頼人が死亡していても」
「依頼人はすでに死亡している。あなたは依頼人からは報酬を受け取っていない。あなたは、畠山さんは病死ではなくて、他殺かもしれないと思って調査を続けている。ただし、誰からも報酬はない。変わった人だ」
「どう思ってもらってもいい。私は、ただ、自分を納得させたいだけだ」受話器の向こうで大きく息を吐き出す音が聞こえた。
「私はジャーナリストとして、調査をする」
「勝手にどうぞ」
「また、連絡をするかも知れない」
「いろんな連中が私と話したがる。しかし、私は話好きではない。誰かと話をするくらいなら、ソファに座って、のんびりとオフィスの天井をながめているのがいい」
「なるほど。それは残念だ。畠山さんの実子の畠山修二の話は興味があるんじゃないかと思ったけど、話好きじゃないんだったら、やめとくよ」
そう言って、彼は電話を切った。