青い手紙 11 | 創作ラボ2

青い手紙 11

死亡した畠山義男にとって、あるいは、畠山氏だと名乗って電話してきた人物にとって、青い封筒は、重要な意味があるはずだった。電話をしてきた人物は、私が青い封筒を発見することを予想していた。あるいは、ヘルパーの女性が発見することを予想していたはずだ。しかし、青い封筒は毛布で隠されていた。ヘルパーも、私も青い封筒のことに気づかずに、それ以外の人物が、発見することも予想していただろう。いずれにしたところで、青い封筒は、誰かに見つけられる予定だったのだ。


ところが、その封筒を私が持ち去ることは、畠山氏、あるいは、電話をかけてきた人物は予想していなかったはずだ。私は、その青い封筒を手に持って、眺めていた。封筒の表にも、裏にも何も書かれていなかった。堅く握られていた青い封筒を死体の左手から無理矢理に抜き取ったために、封筒にはいくつもの折り目がついていた。


封筒を開けるべきかどうか迷った。畠山氏の死の原因のカギを握っているのは、この封筒であることは間違いなかった。病死なのか、自殺なのか、他殺なのか、まだ何も分かっていない。畠山氏の死因が分かるまで、この封筒は封印しておくべきだと私は思った。


では、畠山氏の死因は何なのか。見落としていることはなかっただろうか。私は、畠山氏の部屋を撮影した写真をパソコンのモニターで見てみた。


モニターに映し出された老人の顔には、暖かい色はなかった。雪の降る日に公園のベンチに何時間も、ぼんやりと、座っていたかのような顔色だった。皺は数えきれないくらいに額から顎の先まで、左右、上下に走っていた。血が固まったようなどす黒い斑点が額から頬にかけていくつもあった。仮に、誰かが手を下して、命を奪うことをしなくても、畠山氏の命の灯火は、消えかかっていたのではないかと思えた。


首筋は皺に覆われて、私が片手でつまんでも折れそうだった。首筋には、何かで絞めた跡は見当たらなかった。後頭部の写真も念入りに見たのだが、何かで殴られたような跡はなかった。


外傷はないといっても、私が確かめたのは、畠山氏の頭部だけであって、首から下は、服を脱がして確かめたわけではないから、身体のどこかに外傷はあるのかも知れないが、それは分からない。


写真で見る限り、部屋は、荒されてはいないし、何かが盗られたようにも思えなかった。気になるのは、流し台の上にあった薬と、音がでないまま、つけっ放しになっていたテレビだった。音を出さないまま、テレビをつけていることは、ないことではないし、心臓が悪いのだから、薬は定期的に飲む必要があっただろうし、その薬が流し台の上にあったとしても何も不思議はない。薬の銘柄を確認しようと思って、パソコンのモニターで等倍に拡大してみたが、銘柄は分からなかった。


写真からはほとんど何も分からなかったが、私にはやるべきことがあった。私は電話に手をのばして、受話器を取った。