プレイバック レイモンド・チャンドラー
レイモンド・チャンドラーのこともフィリップ・マーロウのことも知らない人でも、『タフでなくては生きて行けない。やさしくなくては生きている資格はない』というフレーズは知っていると思う。
これは、生島治郎氏の訳で、ハヤカワ・ミステリ文庫の清水俊二さんの訳では、第二十五章に、『しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」』というフレーズで登場する。
実際のところ、『プレイバック』は、レイモンド・チャンドラーの最後の長編小説となる。
この作品は冒頭から会話文が多くて、読みやすくて、いつものチャンドラーの文芸的な味わいが少ないような感じを受けた。
しかし、チャンドラーらしい文芸的味付けは、決して消えているわけではなくて、作品の後半部分では、文芸らしい雰囲気は味わえる。
チャンドラーが七十歳の時に発表された作品だということで、なんとなくチャンドラーの体調が悪いのではないかと思われるような雰囲気が感じられる。あるいは、厭世的な雰囲気といってもいいと思う。
これまでの作品では、プロットが複雑だったが、この作品はさほど複雑ではない。これまでの作品では登場しなかったような人物がが登場する。その人物は、ホテル住まいの老人で、その老人が、神とか死後の話をする。神とか、死後の世界の話をこの老人に語らせるということは、チャンドラーは自分自身に死が迫っていることを悟っていたのだろうと思われる。
このホテル住まいの老人だけではなくて、プロットには、直接関係ないと思われる章を挿入して、そこで、老人に古き良き時代のことを語らせる。あたりまえだが、チャンドラーは歳をとってしまったのだと感じてしまう。
夢なのか、現実なのか分からない観念的な表現の章があり、章が変わるときに、物語の筋がジャンプしてしまうように感じられる章がある。
プロットを複雑にさせずに、物語を終わらせようとするために、物語の展開をジャンプさせたのだろうか。
チャンドラーが疲労しているのが感じられる。
それでも、物語の終盤になると、チャンドラーらしい語り口になってくる。
殺人犯が分かっているのに、誰が罪を犯したのか分かったのにもかかわず、マーロウは、警察に話すことはない。そして、報酬も受け取らない。
最後の章では、唐突に、パリにいるリンダ・ローリングから電話がかかってくる。リンダ・ローリングは「長いお別れ」で殺されたシルヴィアの姉です。どうも、マーロウはリンダ・ローリングと結婚するような感じで物語は終わる。前の作品の登場人物がこの作品でも登して、結婚しようなどということを言うから、『プレイバック』というタイトルがついたのだろうか。
実は、チャンドラーは、マーロウと、リンダ・ローリングが結婚したのちの作品も書き始めていた。チャンドラーの死後、ロバート・B・パーカーが『プードル・スプリングス物語』というタイトルでその作品を完成させた。
この作品も読みたくなった。
とりあえず、チャンドラーの長編、七作品はすべて読んだ。
あとは、短編四冊を読んでみようかとも思う。
