分かってしまう | 創作ラボ2

分かってしまう

誰でもそうだろうが、彼女は病院に行くのは好きではなかった。


病院特有の薬品の匂いも嫌だった。


待合室の不機嫌な、生気のない人々の顔を見るのも嫌だった。


そればかりではなかった。


彼女には、分かってしまうことがあった。


身体の異変に気づいたのは、二週間ほど前だった。


彼女は、自分ではまっすぐに歩いているつもりだったが、どうも、身体はまっすぐには進んでいなかった。まっすぐ歩いているはずなのに、右方向に歩いて行ってしまったり、あるいは、左方向に歩いて行ってしまうのだった。


体調がよくないとか、そういうことではなかった。頭痛もしていない、膝が痛いとかいうこともなかった。


ただ、まっすぐに歩くことができなかったのだ。原因はなんとなく彼女には分かっていた。彼女は、音に対してとても敏感だった。他の人が聞き取ることのできない小さな音も聞き取ることができた。社会に出て、仕事を持ってからよりいっそうその傾向は強くなっていた。


人の話し声が響く場所で長時間いると気分が悪くなることがあった。彼女は、まっすぐ歩けない原因が耳にあるのではないかと判断して、耳鼻咽喉科に行った。


その病院の待合室で、彼女は意外な人物に会った。それは、仕事の取引先の商店のご主人だった。彼は彼女の姿を見つけると、話しかけてきた。彼女が聞くまでもなく、彼は喉に痛みがあると話した。


病院に来るくらいだから、元気がないように見えるのは仕方ないのだが、彼女には、分かってしまった。彼の病気がどういうものであるのか。


知りたくもないのに、彼女は時々、分かってしまうことがある。これはある種の能力なのだろうか。いつもそうではないのだがある時に分かってしまうことがある。死期が近付いていることが。


その取引先の個人商店のご主人は、半年後に死亡した。


分からなくてもいいのにと、彼女はいつも思う。でも、分かってしまうのだ。