15秒遅れ | 創作ラボ2

15秒遅れ

約束の時間まで、あと25分だった。


改札を抜けながら、彼は、腕時計の時刻を確かめた。


彼の時計が正しい時刻を示しているのなら、あと、23秒後に電車は発車するはずだ。この電車を逃してしまうと、約束の時間には間に合わない。


彼は、地下鉄の階段を、ほとんど飛ぶように降りた。


電車はまだフラットホームに止まっていた。


彼はドアが閉まることを予測しながら、やや身体を斜めに傾けて電車の中に入った。


うまくいった。


彼は、空いているスペースに腰を下ろした。


ほっとして、彼は腕時計を見た。


電車の発車時刻は過ぎていたが、電車はまだ発車していなかった。彼は、腕時計が進んでいるだけだと思った。


まもなく、電車は発車した。


何かの勘違いだろうかと、彼は思った。


駅名が書かれた表示板が逆方向に流れて行ったように思った。


それは、勘違いではなかった。


電車が次の駅に止まった時、彼は完全に理解した。


彼は、逆方向に進む電車に乗っていたのだ。


彼の時計は、進んではいなかった。15秒遅れていたのだ。


彼がプラットホームに降りた時には、すでに彼が乗るべき電車は発車していた。


彼の時計が遅れていなかったら、プラットホームにはそれぞれ違う方向に進む電車が止まっていたはずだ。そして、彼は、自分の乗るべき電車に間違わずに乗ったはずだ。


彼は、時間ばかり気にして、電車の進む方向を確認もしていなかた。プラットホームに止まっている電車は自分が乗るべき電車だと信じて疑わなかった。


15秒遅れた腕時計によって、こんなことになってしまったのだ。