カラスの鳴く日
アパートの近所でカラスが泣いていた。それは、地獄の底から聞こえてくるような不気味な鳴き声だった。
カラスの鳴き声は、職場に向かう彼女の気持ちを憂鬱にした。
朝の通勤電車はいつものように、彼女からエネルギーを奪い取っていく。
まるで、巨大なカタパルトで押し出されたように、電車のドアから外へと彼女の身体は、バランスを崩しながらき吐き出された。かろうじて、彼女はプラットホームに両足で立って、アンドロイド的な歩調で改札へと向かった。
無機質的な表情でまっすぐに前方を見つめて、彼女は駅から職場に向って歩いた。
無口で冷たいコンクリートの建物の中へ彼女は入った。
職場の同僚とは、営業用の笑みを浮かべて朝の挨拶を交わす。
もうすぐ昼休みになろうとした時、彼女は、ちょっとしたミスをした。
ここぞとばかりに、課長は彼女を呼びつけて、この世のすべての悪の根源が彼女であるかのように、罵声を浴びせ続けた。
彼女は、頭を垂れて、ひたすら、課長の言葉を聞いていた。
心のかでは、彼女は、課長を何度も刺していた。「お前なんか死んでしまえばいいんだ」という言葉が口から出そうになるのを彼女は必至で抑えた。
翌日、課長は出社しなかった。
昨夜課長は、夫婦喧嘩をして、妻に、刺殺されたのだった。
やはり、カラスの鳴く日は誰かが死ぬ。