いつか会える日 | 創作ラボ2

いつか会える日

きっと、いつか会える日を楽しみにしています。


毎年、彼女からは、そんな文面の年賀はがきが届く。


最後に彼女に会ってから、何年たっているのだろうか。最後に会った時の彼女は、26歳だった。結婚しましたという、はがきが届いていないから、たぶん、まだ独身なのだろうと彼は思っていた。


彼は、結婚生活を5年継続して、そして、何の問題もなく、きれいさっぱりと、離婚した。彼が婚姻生活を続けている間も、彼女からは、年賀はがきは届いていた。その年賀はがきが離婚の原因というわけではない。彼女は、彼のクラスメイトだったから、高校を卒業してから毎年年賀はがきが届くことを、彼の妻はとがめることはなかった。離婚の原因は、実のところは、あまりはっきりとはしていなかった。日常の小さなことがかみ合わなくなって、最終的には、二人の接触ポイントが完全になくなってしまったというのが、離婚の原因なのだろうと、彼は解釈していた。


彼を束縛する者がいなかったから、彼は思いのままに行動をする自由を手に入れていた。休日には、気分にまかせて遠くに出掛ける。彼の行動範囲は、日本国内だけではなく、海外にまで及ぶ。訪れた場所の光景を写真に撮るのが彼の趣味だった。写真展も何度か開いた。


彼は毎年、一度か、二度、海外に出かける。観光が目的なのだが、写真を撮ることのほうが観光よりも、比重が大きかった。


彼は、以前に、ドイツに訪れていた。ドイツの城が彼の眼にはとても印象的に映った。今年も彼はドイツに行った。


ドイツと、オーストリアの国境の近くに彼はいた。そこに、彼が気に入った小さな城があった。ヨーロッパの歴史を感じる城は、やはりドイツかオーストリアだと彼は思っていた。背景の山並みと、お城が実にうまく調和していた。


彼は、何枚もシャッターを切った。彼と同じ撮影ポイントで撮影している観光客が多くいた。だいたい、海外はどこでもそうなのだが、有名な観光スポットでは必ず日本人の観光客かいる。


「感激!きれい」英語と、フランス語、ドイツ語、に交じって、日本語が聴こえてくる。


彼が撮影を終えた時、「すみません、日本人の方ですよね。シャッターを押していただけますか」

 と、彼の背後から声がした。


彼が振り向くと、右手にコンパクトデジタルカメラを持ってこちらに差し出している女性が微笑んでいるのが見えた。


一瞬、彼は何かを思い出した。大切な忘れ物を思い出したような気分だった。しかし、それが何であるのか彼には分らなかった。


彼女も、少し不思議そうな表情をして、彼の顔を見ていた。


「ああ、いいでいすよ」と、彼が言ってコンパクトデジタルカメラを彼女から受け取ったとき、彼女の、曖昧なほほ笑みは、確信的な笑顔へと変わった。そして、「きっとそうよね」と、言った。「きっと、まちがいなくそうだ」彼も確信をもって、そう言った。


彼と、彼女は、時を経て、そして空間をへて、「いつか会える日」を現実のものとしたのだ。