夏服を着た依頼人
すっかり秋めいてきた午後だった。一人の女性がオフィスにやってきた。
彼女は、ノースリーブの鮮やかなオレンジ色のワンピースを着ていた。彼女は季節を間違えているようだった。年齢は30歳の前半のように思えた。面長のきりっとした印象の顔立ちをしていた。
夫が1週間前から姿を消してしまっているので探してほしいという依頼だった。大人の男が1週間家に戻らないということは世間ではめずらしいことではない。
「もう少し待てばご主人は戻ってくるかもしれない。もし、事件性があると思うのなら、警察に捜索願いを出したほうがいい。家出人を探すのは簡単なことではない。私のような個人営業の捜査員には手に余る」
と、私は彼女の、やや切れ長の目を見ながら言った。
私が、依頼を断っても彼女はがっかりした様子を見せなかった。
それにしても、なぜ、彼女は季節はずれの派手な夏服を着ていたのだろう。どうも、奇妙だった。
それから1ヶ月後に、私は彼女をテレビ画面で見ることになった。
夫殺害の容疑者としてニュース番組で報道されていた。彼女の夫には多額の生命保険金が掛けられていた。
テレビのニュースによると、彼女の夫が殺害されたのは彼女が私のオフィスを訪ねてきた頃だった。
どういうことだろうと私は考えてみた。
彼女が私のオフィスにやって来た時にはすでに夫は殺害されていた。あるいは、まだ、夫は生きていて、その後に殺害された。
いずれにしても、何のために、彼女は季節はずれの夏服を着て私のオフィスを訪ねてきたのだろう。
私が彼女の依頼を引き受けていたら、彼女は夫を殺害しなかったのだろうか。
ただの、アリバイ工作だったのか。わざと、記憶に残る季節はずれの夏服を着ていたのは、そのためだったのか。