その日の夕刻、漣と安西は別荘の日本間で吟味された食材を用いた懐石料理に舌鼓を打っていた。
安西は若々しい食欲でその素晴らしい料理を楽しんだ。
食事の後、2人は茶室に足を運び絹が立ててくれた薄茶をたしなんだ。
「どうした?」漣は浮かない顔をしている安西を心配して訊ねた。
「こんなに僕の為に色々もてなしてくださっているのに、僕は何も漣さんにお返し出来ないのが辛いんです」「そんなことはない。
私はずっと長い間孤独だった。3度結婚して子供もいるが、皆母親の許にいる。
上の娘はドイツにいるからもう10年以上会っていない。
ここへ来たのも本当に久し振りなだ。
君がいてくれるから来る気になったのだ。
それだけでも君は充分にお返ししてくれているよ」
漣はそう言って安西に微笑みかけた。

つづく一

この物語はフィクションです。