第6章
10年前一。
有沢は新進気鋭の若手俳優だった。
その2年前にデビューした彼は潮書房の御曹司というバックボーンもあったがその抜きん出た演技力と美貌を武器にメキメキと頭角を顕してきた。
そんな彼が師事してほしいと願っていたのが、漣康佑だった。当時はまだ駆け出しプロデューサーだった彼の才能を見抜いていた有沢は漣の許で働けば絶対に世に出られる!と確信に近い見通しを持っていた。
だから、他の仕事を断ってまで彼の映画オーディションに何度も応募したりして漣に働きかけたのだが一。
漣は彼をモブ役にさえ採用しなかった。
有沢は自分がライバル社の息子だからか?と悩みもしたが、漣はそんな人ではないとその当時は彼を盲目的に敬愛もしていた。
ある日、思い余って有沢は漣の事務所に直談判をしに行った。漣の前で有沢は泣かんばかりに訴えた。
『何故です?
何故僕を採用してくれないのですか?
何か足りない所があるというならおっしゃってください』
漣は有沢を見てきっぱりと言った。
『君には一』
漣が告げた言葉はそれからずっと有沢の心を苛み続けた。

つづく一

この物語はフィクションです。