アームチェアから真っ直ぐにこちらを見つめている安西のポートレイトを漣は改めて見つめた。
男でありながら雄々しさも逞しさも充分に鼓舞していながら、その眼差しに性を超えた妖しさを醸している一まさに名画だった。
全身黒ずくめのその姿を眺めているだけで、漣は木次の苦しい胸の内が判る気がした。
木次もまた漣とは違った意味で芸術品としての安西を熱愛しているのだと一。「本当に俺はもう駄目なんだ。一彼以外の対象を撮っても気持ちが入らない。かといって彼も今の俺には目映すぎて撮れない一。
こんな状態で仕事は続けられない。
だから俺は、パリに逃げる。
パリには別居している女房がいる。
暫くパリにいると言ったら、喜んでくれた」
木次には13年前にパリで結婚したフランス人の妻がいた。3年間はフランスで暮らしたが日本での名声が高まるに連れて単身で日本に住むようになっていた。
パリには数年に一度くらいしか行かなくなっていたが、夫婦関係は良好だった。
木次は今の状態を妻にすがる事で逃れようとしているのだ。
「木次、お前を悩ませる原因を作ってしまったのはあやまる。だがな、逃げても結局は何も解決しないぞ」
「判っている。判っているよ。でも他にどうしようもないんだ。
何年かかるか判らないが、せめてまともに安西を見られるまで俺は、フランスに逃げる一」
木次はグラスをあおった。
つづく一
この物語はフィクションです。
男でありながら雄々しさも逞しさも充分に鼓舞していながら、その眼差しに性を超えた妖しさを醸している一まさに名画だった。
全身黒ずくめのその姿を眺めているだけで、漣は木次の苦しい胸の内が判る気がした。
木次もまた漣とは違った意味で芸術品としての安西を熱愛しているのだと一。「本当に俺はもう駄目なんだ。一彼以外の対象を撮っても気持ちが入らない。かといって彼も今の俺には目映すぎて撮れない一。
こんな状態で仕事は続けられない。
だから俺は、パリに逃げる。
パリには別居している女房がいる。
暫くパリにいると言ったら、喜んでくれた」
木次には13年前にパリで結婚したフランス人の妻がいた。3年間はフランスで暮らしたが日本での名声が高まるに連れて単身で日本に住むようになっていた。
パリには数年に一度くらいしか行かなくなっていたが、夫婦関係は良好だった。
木次は今の状態を妻にすがる事で逃れようとしているのだ。
「木次、お前を悩ませる原因を作ってしまったのはあやまる。だがな、逃げても結局は何も解決しないぞ」
「判っている。判っているよ。でも他にどうしようもないんだ。
何年かかるか判らないが、せめてまともに安西を見られるまで俺は、フランスに逃げる一」
木次はグラスをあおった。
つづく一
この物語はフィクションです。