その表情は微笑んでいて、ひどく傲慢にも無邪気にもみえた。一幅の名画のようなポートレートは漣の胸に深く食い込んでいった。
「すごい一。
よく撮れている一。
月並みな表現だが芸術そのものだな」
漣が褒めても、木次は喜びもせず苦し気に顔を伏せたままだった。
「漣、俺はもう駄目だ。
写真家としてはやっていけなくなった」
「えっ。
それはどういう意味だ?」
「あまりにも自分の意に叶った被写体を見つけちまった。
モデルなんてものはな、写す側からの不満があって当然なんだ。
それをモデルと共に技術や努力で少しでも理想に近づけてゆく一。
そうやっていくものだった。
少なくとも俺はそうしてやってきた。
だが、彼は一
安西は完璧すぎた。
本当に僅かな間に物凄く成長して、俺は持てる物全ての技術を彼に注いだ。
それはそれで良いと思っていたよ。
それだけ心を燃やせる相手がいたのを喜びもした。
だが一」
木次は頭を抱え込んだ。
「駄目なんだ。もう俺には、彼以外のものが全てゴミのようにしか感じられなくなってしまった。
そんな気持ちで他の写真を撮っても納得出来る訳がないだろう。
漣一、どうしてどうしてくれるんだよ。
お前のせいだ。お前が一」
木次は恨みがましい目を向けた。
「お前さんが、安西を撮れと俺に命じた。
お前が安西を見いだしさえしなければ、俺はこんな苦しい思いをせずに済んだのに一」

つづく一

この物語はフィクションです。