「俺も確かに意固地になっていたな。
柄にもなく嫉妬していたんだよ。
社長があまりにも畑違いの君に夢中になっているから僻んでいたんだよ。
君と話し合えて良かった。
社長の理想を乗り越える俳優か一。
そんな事を考えてもいなかったな。
だが、それが一番社長を喜ばす事なのだろう」日下は安西に向かって右手を差し出した。
「悪かったな。サンドバッグにしちまうなんて脅して。
俺を許してくれるか?」
「勿論です。
日下さん、僕達友達になれますよね」
2人は固い握手を交わした。
ドア越しにそのやりとりを聞いていた漣は、ほっと胸を撫で下ろした。
日下が乱暴な真似をしたら、安西を庇おうと思っていたがその必要は無かった。
そして、改めて安西の人生観や人を説得する能力に舌を巻いた。
(激しい男だ。あのしなやかな細身の体の何処にあれだけの炎を秘めているのだろう)
漣は、ぞっとその場を離れた。
その夜、漣は日下を自宅に招いた。
「今まですまなかった。
決して君を蔑ろにするつもりは無かったが、結果的に君を傷付けてしまったのは謝る。
来年、共に渡米する時にスタンフォード氏に紹介しよう。
日下勇馬一
私が育てた日本一の俳優だとな」
「社長一。
申し訳ありません。
実は一」
社長の手厚い謝罪とフォローに感涙にむせびながら、日下は安西の事を告白しようとした。
漣は首を振って制止した。
「さあ、今夜は2人だけで飲み明かそうじゃないか。
君は、私の大事なスターなのだから。
これからもずっと私の許で働いてくれるな?」日下は渡されたグラスを受け取って乾杯した。
つづく一

この物語はフィクションです。