日下は夕子と深い仲になって、社長に申し訳ないと常に言っていた。
それでも、おまえが好きだからと一夕子も同じ思いだった。
しかし、彼の社長に対する思いは夕子との事をも凌ぐ程強いものだった。
そんな日下の前に突然現れたのが安西だった。突然、降って湧いて出た輩だった。
同じ芸能人なら対処のしようもあったが、彼は全く畑違いのプロ野球選手だ。彼の写真集を撮りたいと友人である木次が頼み込み、社長が出版したのが縁で知り合ったと聞いている。
最初のうちはただの物珍しさで彼をかまっているのだと思っていた。
しかし、この頃の漣は完全に自分を無視している。
50周年記念パーティーの時も漣の傍らにいたのは安西だった。
日下は、パーティーの間ずっと苛立っていた。そして、今度はロバート・スタンフォード氏との会見を奪われたのだ。
『日下、すまないが今日の所は安西君に譲ってやってくれ。
彼は、スタンフォード氏の大ファンでね。
スタンフォード氏に彼の事を話したら、是非会いたいとおっしゃってくれた。一君にはこれからいくらでも会える機会を作ってやる。
安西君には今しか時間が無いんだ。
判ってくれるな?』
口調は穏やかだったが有無を言わせぬ重みがあった。
『判りました』
と歯をくいしばって譲るしかなかった。
夕子も漣の態度はひどいと思う一。
漣は1人の人間にのめり込むと他の人間への配慮に欠ける所があった。
夕子は愛する男の怒りと嘆きをどうにも出来ずに、ひっそりと涙を拭った。
「話をつけてやる一」
日下は荒々しくタンブラーをテーブルに置くと呻くように言った。
「あいつを社長の名を使って呼び出して、絶対に話をつけてやる」
「日下さん、まさか?」
「野球選手って言ったって、あんな細っこい奴俺がちょっと威しをかければ、ヒイヒイ言って泣きわめくさ。二度と社長に近付かないように少々、可愛がってやろうじゃないか。
夕子、誰にも言うなよ。
言ったらおまえとは終わりだからな」
酔った勢いで暴言を吐きながら日下は一戦をかます決意を固めた。
つづく一

この物語はフィクションです。