漣の気紛れな誘いは、今日が初めてではなかった。
あの時から付き合いを始めて時に度肝を抜かれる真似を彼はしたものだった。
一度などカマロをとばして、鈴鹿サーキットに連れていかれた事もある。
野球以外で安西の興味を引く物に彼は精通していた。
「今日は、どうしても君に会わせたい人がいてね。
丁度、君も仕事で東京に来ていたからね。
彼も、今夜が一番都合が良いと言うので急ではあったが君を待っていたんだよ」
あえて連絡をしなかったのは、サブライズにしたいという思惑もあっての事だろう。
「目的地に行く前に寄る場所がある。
約束は8時だからね。まだ充分に時間はある」漣が最初に寄ったのは、銀座の彼の行き付けのテーラーだった。
安西のような若造等どんなに金を積まれても、まるで相手にしないだろう格式高い高級店である。
その店構え、仕事人達の貫禄に満ちた態度からもそれは充分に窺えた。
有無を言わさず安西は、彼等に寸法を計られお気に入りの生地を選ばされ仮縫いの日取りまで約束させられた。
「クリスマスにはまだ早いが、寸法取りや仮縫いは欠かせないからね。
これでは、サプライズにはならないが」
漣は上機嫌でそう言った。
つづく一

この物語はフィクションです。