「よかった。
君が昨日のことで薔薇が嫌いになってしまったかと心配だった」
「そんなことはありません。
そんなことは」木次は漣から贈られた花束に顔を埋める彼を見て何かやるせない気持ちになった。
「すまんが、まだ撮影が終わっていないんだ。漣、すまんが少し外してくれないか」
「ああ、判った。
邪魔してすまなかった。
安西君、撮影終了後は何か予定はあるのかい?」
「特にありません。
どこかで食事をして横浜へ帰ります」
「よかったら、一緒に食事しないか。
スタジオの前に車を待たせておくよ。
ロールスロイスだ」
「ええ、喜んでお供させていただきます」
漣は微笑みながらスタジオを後にした。
スタジオは暫し唖然とした雰囲気に包まれた。それからの撮影は当然ながらあまり進行しなかった。
木次は苛立ち、被写体は心ここにあらずの態を隠さなかった。くちさがないスタッフ達も毒気を抜かれてしまっていて、ことがうまく運ぶ訳がなかった。
撮影終了後、スタッフ達は花束の前に集まった。
「しっかし、この薔薇どうします?
安西さん、持って帰られますか?」
「ここに飾っておきましょう。枯れるまで一。僕はそうしたいです」
漣らしいと木次は薔薇の花束を眺めながら思った。
本来なら蕾を贈るものなのに、それを承知であえて咲き誇った薔薇を花束にしていた。
用具室から一番大きなバケツを持って来てとりあえず花束をそこに納めた。
安西は薔薇を何本か抜き取って女性スタッフに分け与えた。

つづく一

この物語はフィクションです。