最初の撮影は安西に場馴れしてもらう為に、木次のスタジオで行った。
その3日目の出来事である。
タキシード姿の安西が真紅の薔薇の花束を抱き締める場面(シーン)を撮影している時
「あっ」
と声をあげて安西は顔をしかめた。
左の薬指から一条の血が流れ出した。
「しまった!」木次は顔色を変えた。
あれほど念押しされていたのに薔薇の棘が彼の指に刺さってしまったのだ。
「馬鹿野郎!
あれだけ棘は全部抜いておけと言ったのに!」木次は青ざめて小道具担当のスタッフを怒鳴りつけた。
しかし、花束に棘がないかを確認しなかった自分にも責任がある。
安西は安心だと思ったから指示通り花束を抱き締めたのだから。
「すまない、安西君。
私の責任だ。
あれだけ君に言われていたのに」
「大丈夫です。大したことはありません」
安西は少々顔をしかめながらも怒らなかった。木次はあわてて消毒薬だの包帯だのと大騒ぎを始めた。
幸い救急手当てに長けた女性スタッフが素早く応急処置をしてくれた。
その間、木次はみっともないほどうろたえて安西の側を離れなかった。
「あ、あ。
本当にすまなかった。
でも左手で良かった。
利き手じゃなくて」
安西は急に鼻白んだ表情で彼を見た。
「木次さん、僕はサウスポーですよ。
普段は右手を使っていますけれど」
その時、どのようにしてその場をしのいだか正直言って木次は今も覚えていない。
本当に何と言って取り繕ったのだろう。
とにかく、その日はあがりも近かったので撮影はそこで終了した。
つづく一
この物語はフィクションです。
その3日目の出来事である。
タキシード姿の安西が真紅の薔薇の花束を抱き締める場面(シーン)を撮影している時
「あっ」
と声をあげて安西は顔をしかめた。
左の薬指から一条の血が流れ出した。
「しまった!」木次は顔色を変えた。
あれほど念押しされていたのに薔薇の棘が彼の指に刺さってしまったのだ。
「馬鹿野郎!
あれだけ棘は全部抜いておけと言ったのに!」木次は青ざめて小道具担当のスタッフを怒鳴りつけた。
しかし、花束に棘がないかを確認しなかった自分にも責任がある。
安西は安心だと思ったから指示通り花束を抱き締めたのだから。
「すまない、安西君。
私の責任だ。
あれだけ君に言われていたのに」
「大丈夫です。大したことはありません」
安西は少々顔をしかめながらも怒らなかった。木次はあわてて消毒薬だの包帯だのと大騒ぎを始めた。
幸い救急手当てに長けた女性スタッフが素早く応急処置をしてくれた。
その間、木次はみっともないほどうろたえて安西の側を離れなかった。
「あ、あ。
本当にすまなかった。
でも左手で良かった。
利き手じゃなくて」
安西は急に鼻白んだ表情で彼を見た。
「木次さん、僕はサウスポーですよ。
普段は右手を使っていますけれど」
その時、どのようにしてその場をしのいだか正直言って木次は今も覚えていない。
本当に何と言って取り繕ったのだろう。
とにかく、その日はあがりも近かったので撮影はそこで終了した。
つづく一
この物語はフィクションです。