一結局、安西はモデルになるのを承諾した。
球団側も賛否両論はあったが、当代一の人気写真家が撮影するという宣伝効果を期待して、オフの僅かな期間で撮影するのを条件に許可が下りた。
安西は野球一筋ではあるが、かなり多趣味な人間で木次に求められたのが純粋に嬉しかったのだ。

「漣の奴一」
木次はパーティーがひけてから自宅のリビングで一人ごちた。「おい、爺さんも1杯やるか」木次はオールドパアのラベルの老人に語りかけた。
さほど強くもないくせに今夜はなかなか酔えない。
頭は妙に冴えわたっていくばかりだ。
(ライバルの驕りじゃあ酔えないってか)
木次は苦い酒をあおりながら、1年前の安西と漣の出会いを思い起こした。

写真集の撮影は12月初旬から半月間行われた。
野球選手はオフといえど自主トレやキャンプで多忙である。
安西も撮影しながら自主トレーニングを欠かさなかった。
撮影を承諾した安西は木次に絶対条件として肩や腕、手に悪影響を及ぼすような撮影はしないと宣言していた。
彼を最多勝に導いたミラクルボールとまでいわれるフォークを生み出すその手は彫刻のように美しかった。
しかし、木次は撮影初日にとんでもない失敗をやらかしてしまった。

つづく一

この物語はフィクションです。