第2章

木次大介が安西貴之に写真集のモデルの依頼をしたのは、去年の10月下旬の事だった。
六本木にある木次のフォトスタジオの真向かいの喫茶店『ラ・メール』を彼はよく打ち合わせに利用した。
その日も、木次はそこで安西と待ち合わせをした。
「はじめまして。
安西貴之です」「よく来てくれました。
木次大介です」2人は名刺を交換した。
ブルーマウンテンを飲みながら安西は木次の写真について語り始めた。
「木次さんの写真集は何冊か買っています。
すごいですね。被写体の捉え方が他のカメラマンとは全然違っていて、同じ女性の写真でも木次さんの写真は鮮烈で忘れられない。
僕はずっと前からファンです。その木次さんから呼んでいただけるなんて、光栄です」
若者らしい純粋で率直な態度に木次は好感を抱いた。
そして、間近で見た彼が稀にみる逸材であるのを確信した。
「今日、君に来てもらったのはお願いがあってね」
木次の話を聞いた安西は大声を上げた。
「ええーっ!
僕をモデルにですって!」
あまりに大きな声だったので、周囲の客が驚いて2人を見やった。
「ちょっと、もう少し静かにしてもらえないかな」
木次はあわてて指をそば立てた。
「す、すいません。
あまりにもびっくりしたもので。
でも、何で僕なんかに?」
安西は自らを落ち着かせる為にコップの水を飲み干した。

つづく一

この物語はフィクションです。