浅黒い精悍な横顔はまさに野球一筋の融通の効かない不器用さを著していた。安西は完全にパーティーの主賓なのに彼は周囲の人々に愛想笑い一つする訳でもなく完全に孤立していた。
彼の眼はただ1人の人間を追っていた。
自分が地べたから這い上がらせた、栄光を極めつつある人間を。
その為にあえて自らを主役の座から降ろしてまで。
タカ一。
佐伯はいつも彼をそう呼んでいた。
貴之の貴から取った佐伯だけの呼び方だった。思えば漣文庫のロゴマークが鷹だというのも不思議な巡り合わせだ。
(あいつはいつか、漣の許へ飛び立ってしまうかもしれない)佐伯は自分の中にある憂鬱を飲み込むように酒をあおった。

宴の後は、いつももの悲しい雰囲気が漂っている。
漣は後片付けに余念がないスタッフ達を眺めながらそう思った。
彼は一仕事終えた後の充足感が好きだった。
大体においてこのパーティーは成功したといえた。
「あなた!」
パーティーの余韻に浸っていた彼を現実に引き戻す声が響いた。
「弓子、おまえまだいたのか」「子供達を待たせているから、すぐに帰るけどあなたにちょっと言いたい事があってね。
また余計な事をと言われそうだけど一安西君ね」
「安西君がどうかしたのか?」「私は、今日初めて彼に会ったけど本当に大したものだわ。
俳優をやらせても充分に通用するわよ。
ちっとも楽しくないのに、ああまで陽気に振る舞えるのだから」
「何だと!?」「康佑さん、あの子は心底笑ってなんかいないわ。
あなたにはそれが判らないの?」
「そんな筈はない。
彼は充分に楽しんでくれたいた」
漣の反発を遮るように弓子は続けた。
「今に思い当たる時が来るわ。その時になって後悔するでしょうよ」
弓子はそれだけ言うと足早に会場を去って行った。
第1章終わり

つづく一

この物語はフィクションです。