安西が漣から離れたのをいいことに有沢はさりげなく安西に近付いた。
そして背後から酩酊を装って体をふらつかせて持っていたグラスのダイキリを安西にふりかけようとした。
「アーッ!」
周囲から悲鳴が湧いた。
しかし、安西は間一髪で素早く飛び退き飛沫さえかからなかった。
周囲からほうーっという安堵と感嘆のため息が溢れた。
「あーっ。
どうもすまなかった。
すっかり酔ってしまった。
グラスが滑ってしまって」
「そうですか。構いませんよ。間違いは誰にでもあります」
落ち着いて答える彼に有沢は心中で舌打ちをした。
ボーイがあわてて後片付けを始めた。
「さすがは超一流の野球選手だね。
大したものだ。君、僕を知っているかい?
一応は売れている俳優なのだがね」
「有沢信吾さんでしょう。
勿論、存じ上げています。
ドラマを拝見しています」
「それは光栄だ。
君のようなスター選手に覚えてもらっているとはね。
そう、有沢信吾一。
以後、お見知りおきを」
「安西君、紹介したい方がいらっしゃる。
こちらへ来てくれないか」
尚も話しかけようとする有沢を遮るように漣が呼んだ。
なるべく有沢に近付けたくないといったふうだった。
「失礼します」安西は有沢に一礼すると、漣の許へ歩んでいった。

つづく一

この物語はフィクションです。