「ずっと俺は、檪の木の下に捨てられたと思っていた。
でも、今は拾ってもらえたと言えるようになったよ。」

「クヌギ…。」

「きっと、マカゲさんやマナイ…様、他の多くの人々と出会って支えてもらったからだと思う。
たとえ親がいなくても、俺は決して1人じゃなかった。」

「当たり前じゃないか。
俺達はどんな形で生まれてこようと、1人で生きていけるもんじゃない。」

「その通りだな。マカゲさん、本当に長い間ありがとう。
迷惑ばかりかけて申し訳なかったよ。」

「何を今更…。
お前、変だぞ。
今日はやけに塩垂れているじゃないか。」

「…この姿のうちに礼を言っておきたかった。
さようなら―。」

クヌギはそう告げると、空転車の後部座席を思い切り蹴った。
一瞬でその姿は宙に飛び、かき消えた。

「あっ。待て!
このやろ、どこへ行く気だ?」

マカゲは、慌てブレーキを掛けた。

―マナイ神様の所へ行ってくれないか。
あの方は今、とても混乱していらっしゃると思うから。―

クヌギの念がマカゲの脳裏に届いた。
「クヌギ!」

マカゲは周囲を見回したが、クヌギの姿は見いだせなかった。