一方、ここは東亜の繁華街ー。
同日のほぼ同時刻ー。


真影(まかげ)は、大規模な喫茶店の一番奥の席で早奈谷に向かって手を振った。
「おーい、ここだ。ここだ。」(変わらないな、あの人は。)早奈谷は苦笑しながらサングラス越しに先輩を見つめた。

真影 周(まかげ しゅう)
34歳。
やや大柄でしなやかな体躯。
独身。結婚歴なし。
取り立ててアクの強い容貌ではないが、その眼光の鋭さにはただならぬものがあった。

6歳年長の彼が、早奈谷の大学生時代の先輩にあたるのには訳がある。
彼がご丁寧にも1年毎に休学したからである。真影が4年の時に東亜大学芸術学部演劇科に早奈谷が入学してきた。
既に芸能界から何度もスカウトされていた、際立った存在の早奈谷は最初から注目の的だった。
休学中も演劇科に出入りして、まるで牢名主みたいな存在だった真影も彼を気に入り、何かと面倒をみてきたのだった。
学生同士としては、たった1年の付き合いだったが、彼等はその後も頻繁に会っていた。
真影は色々と世間についてレクチャーしてやったりしていた。
だが、4年前にちょっとした事があり、早奈谷が俳優として多忙を極めたせいもあってここ4年間は全くの音信不通だった。