ある不動産系の雑誌に「別荘地の各所有者と管理会社間の管理契約で、個別の契約解除および当事者死亡による終了を否定」(判例があった)という記事が載っていました。概略は以下の通りです。

1.山間部の傾斜地にある別荘地において、各所有者と開発業者の管理会社との間で、個別不動産の管理と別荘地全体の管理を行う管理契約を締結していた。

2.所有者の一部が管理契約の解除をし、又は契約者死亡を理由に契約終了を主張した(民法653条)(管理費支払いを拒む)。

3.当初の訴訟(一審・二審)では、管理契約の解除・契約者死亡による終了(二審)が認められた。

 管理契約は民法の準委任契約(民法656条)(法律行為以外の事実行為を委任する。委任の規定が準用される)にあたり、各当事者はいつでも解除できる(民法651条1項)。ただし、受任者の利益のためにも委任された場合は解除権が制限され、やむをえない事由がなければ解除できない(判例)。

 一審は、「受任者の利益は認められない」と解除を認め、死亡による終了は「属地的性質が強く、委任者死亡でも契約は相続人との間で存続する黙示の合意がある」として認めませんでした。二審(平成22年2月16日判決)では、解除は一審と同じく認め、死亡による終了は「属地的性質があることをもって、死亡により終了しない解釈はできない」と終了を認めました。

4.その後、別の所有者らが管理契約を解除して管理費の支払いを拒み訴訟となりました。今度は一審・二審とも管理契約の解除を認めませんでした。高裁では「管理費は個別管理および全体管理にとどまらず、管理会社所有の排水路、ごみ置き場、公園等を所有者らに利用させる業務を行うことも内容であり、準委任契約に含まれない性質も含んでおり、所有者全員に不可分的な全体管理を行う仕組みであるから、管理会社の利益を目的とする契約であり、主観的な理由で契約を解除することはできず、また当事者死亡により終了するものではない」と原審の判断を支持しました(平成28年1月19日判決)。同一物件について6年の歳月が東京高裁の判断を逆転させたとのことです。

 

5.この問題は、管理会社との管理委託契約ということではなく、どうやって別荘地を共同管理していくのかという面が重要だと思います。別荘地というのは、いろいろあると思いますが、既存集落とは離れた風光明媚なところに人工的に造成されたところが多いと思います。そうすると別荘地内の道路や上下水道管(集中浄化槽など含め)などの共用施設が私有の場合もあると思います。これらを維持管理していくためには相当な費用が必要になります。新しいうちは良いですが、年数が経つうちに多額の修繕費がかかってくると思います。

 マンションのように強制的な管理組合がない場合(区分所有法対象外)、自主管理ができないような別荘地においては、むやみに管理委託契約が解除されてしまえば、機能不全(共用的な設備の維持管理ができなくなる)になってしまうと思われます。

 越後湯沢などのリゾートマンションでは数十万円でも買い手がいないとの話もされています。それは管理費・修繕積立金などの維持費がかかるため、あまり頻繁に使用しないような場合には、経費が重荷になってしまうためだと思われます。別荘地でも、昔のようなブームがなくなり、別荘地の設備が老朽化してくると、経費の問題が重要視されてくるようです。

 また管理委託契約の解除については、受任者の利益のためになっていても、委任者が解除権を放棄したものとは解されない事情がある場合には解除できる(ただし受任者への賠償が必要)との判例(昭和56年1月19日)が出て、広く認められるようになったようです。また委任が有償というだけでは、受任者の利益を目的とするとはいえないとの判例もあったようです(昭和58年9月20日)。

 

 なおマンションの管理委託契約の解約申し込みについては、標準管理委託契約で以下のように明確に記載されています。

 

(解約の申入れ) 

第 19 条 前条の規定にかかわらず、甲及び乙は、そ の相手方に対し、少なくとも三月前に書面で解約の 申入れを行うことにより、本契約を終了させること ができる。

https://www.mlit.go.jp/common/000051902.pdf

 

 マンションの管理委託契約の解除についても、上記のように公的に明確になるまでは、いろいろとトラブルがあったと聞いています。