借家の立退き料の法的根拠ですが、民法で定められている債務不履行による損害賠償や不法行為による損害賠償でもないようです。法律の条文上では、借地借家法28条の更新拒絶等の要件(正当事由)の中の一つの要素としてあるくらいです。(借地契約の更新拒絶等については同法6条に規定があります。)

第一節 建物賃貸借契約の更新等
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条  建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
(略)
(強行規定)
第三十条  この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。


 賃貸借契約書でどのような特約をしていても、上記28条は同30条で明記されているように強行規定なので、28条の内容より借主に不利な取り決めは無効になります。契約書に明記されて、貸主・借主が了解していても、裁判になりますと無効になります。

 (ただし同法38条に規定されている定期建物賃貸借契約をすれば、30条は適用されません。)

 また賃貸借契約の法的な更新拒絶要件は結構複雑です。裁判になりますと裁判官が上記28条の要件を総合的に考慮して、正当事由がどれくらいあるかを判断し、その後に正当事由を補充するものとしての「立退料」の金額を算出します。この正当事由ですが、「子供が使用するため」等の程度の理由では、(100%完全に)認められることはまずないようです。なお貸主の正当事由がまったくないと判断されますと、立退料をいくら払っても更新拒絶は認められないことになります。

 この「立退料」の計算方法ですが、厳密に法規などで定まっている訳ではないようです。

 一般的に立退き料の算出方法に関しては、以下のような要素があります。

(1)借主の移転費用(引越代など移転するための費用)

(2)借主の営業上の補償(店舗を閉鎖・移転することによる営業上の損失等の補償)

(3)消滅する利用権(いわゆる借家権)

 居住用の場合は(1)や(3)から、事業用の場合は(1)から(3)までを考慮して、算出されるようです。(3)の借家権という価格は、借地権のような通常取引される相場のようなものはありません。(立退き料などの場合だけに出てくる価格ということになります。)

なお不動産鑑定により、比較的多く使用される借家権価格は以下のような割合方式により計算するようです。

 借家権価格=(土地価格×借地権割合×借家権割合(30%~40%)+(建物価格(時価)×借家権割合(30%~40%)

(借地権割合は都内ですと60~70%くらいが多いと思います。)

 この「借家権(割合)」というのはどうも分かり難いですが、相続税の財産評価などにもあり、都市再開発法など(転出する借家人の補償費用の産出等)にも用いられて、一般化しているようです。

 なお、「賃料の何か月分」という相場も聞かれますが、法的には上記の総合的な判断で出された立退き料の事例から、賃料で割るとそのようなおおよその相場も出るということだと思います。

 実務的には、通常の居宅用の借家の場合には、貸主・借主の話し合いでほとんど解決すると思います(任意解約)。契約書に通常記載されている通りに、貸主の6ヶ月前の解約により、借主が任意に無償で退去する場合もあります。(通常の契約書では、貸主は6ヶ月前に、借主は1ヶ月前に予告すれば解約できるようになっていると思います。)また数ヶ月分の立退き料の支払いや期間を少し延長することでを借主が納得することもあります。通常揉める場合でも、借主は移転先の賃借の契約費用や引越し代を補償してもらえれば、納得すると思います。(賃料の6ヶ月前後くらいになると思われます。)

 しかし、裁判になりますと、正当事由にもよりますが(借主が度々滞納していたなどの場合を除き)、上記の(1)移転費用と(3)借家権を考慮され、少なくとも賃料の10ヶ月程度の立退き料が算出されると思われます。

 さらに事業用ですと(2)の営業損失を計算しますので、最低でも賃料の数十ヶ月分は計算されると思われます。(営業損失の程度によって100ヶ月を超える場合もあるようです。)

 参考:借家契約における借家人との立退き交渉 不動産流通推進センター

 なお法律につきましては、詳しくは専門家にご相談下さい。