『都市計画の世界史』日端康雄著 講談社現代新書より引用します。

「アメリカでは、都市計画は州と市町村固有の仕事で、一般に州の授権法が市町村の都市計画法(ゾーニング法)である。連邦政府が制定する都市計画法という法律はない。アメリカの都市計画制度の特徴は、民間主導型の都市計画であることと、公共施設の先行的かつ積極的な整備をすることである。

 ゾーニング制の導入に尽力したニューヨークの弁護士E・M・バセットは「ゾーニング制は地域ごとに建物の高さ、容積、用途、土地利用、人口密度の規制を警察権力のもとで行うもの」としたが、ゾーニング制は私権、財産権への不当な侵害として反対も多く、法定においてしばしば争われた。

 1926年、連邦最高裁ははじめてゾーニング制の合憲性を確認する判決を下した。これは第一次世界大戦の好況で発展しつつあった五大湖周辺の一角にあるクーブランド市郊外のユークリッド村でにおいて、不動産会社がゾーニング規制により地価上昇の恩恵を得られず、不当な損害を受けているとして村に対して訴訟を起こしたものである。自治体側に勝訴をもたらしたこの判決は「ユークリッド判決」と呼ばれ、アメリカ都市計画史において極めて重要な事件であった。

 これにより、アメリカのゾーニング制は、それまでの行政の自由裁量権のない規制から、一定の行政の自由裁量権を認める規制に変わることになる。従来のゾーニング制の最低限の規制から積極的な最適の規制が可能になり、都市計画の公共性に対する財産権への拘束を大幅に認めることになった。

 ユークリッド判決の効果は、遅れて60年代から顕著になった。ゾーニングを弾力化してさまざまの都市問題、特に都市の経済開発などに対応するようになったのである。

 連邦政策に頼らないで、民間活力を活用し、州、市町村のゾーニングの例外的、弾力的運用を通じて、公開空地の確保やアーケードの整備など、一定の公共利益を民間が負担することを条件に、主として容積率の上乗せを認める手法(シカゴでは50年からプラザ・ボーナスと称してこのような手法が使われていた)や、上空の開発権の隣接地への移転を認める開発権移転制度(都心部にある教会などの歴史的建造物を保存するためにその敷地の未利用地の容積率を開発権として認定して売買等を認める制度)、鉄道操車場、駅や高速道路上の空中権の利用、特別地区制度、企業誘導助成地区制度など、さまざまの手法が登場した。これらは「インセティブ・ゾーニング」と呼ばれた。(引用終わり)」


<アメリカでは自治体が都市計画を積極的に「マネージング(民間の事業計画のように)」して行くようです。自治体の組織も日本のように官僚的ではなく、民間のエキスパートなどをどんどんアドバイザーとして取り込み、斬新なアイデアを出して進めていくようです。

 都市計画とは自治体の最重要課題かもしれません。そのマネージング能力が問われるとも言えるでしょうか?>