夜は長いと言うのに夜勤に行くなりばてていた。



でも、やっと食事介助が終わってナースコールも途切れ途切れになった。落ち付いて来たので相棒と一緒に夕食を摂ることにした。



「ふうー、疲れたー。」と言って相棒が新聞の広告を観ている。そしておもむろに「あ、かおちゃん。明日、この映画観に行かない?」と言う。



駄目、駄目。最近、夜勤明けでは行動しないことにしてるの。腰は痛いし気持ちはナーバスになるし、とにかく夜勤明けは休むに徹する。



その時、またナースコールが鳴った。うーん、やっぱりほんの数分も休ませて貰えない。



諦めてパネルを見ると、同じ人からだったので、「わーん、またかい。」と嘆く。



ずっと前に足の骨折をしたお婆ちゃんなんだけど、足はとっくに治っている。リハビリもかなり進んでいるし、立てるはず、歩けるはずなのに、ポータブルトイレに降ろせとコールをして来る。



私の倍はある体重を思いきり預けて来るので、もう、ほんと腰がぴきぴき。



しかも、それが5分おきともなると、「ちょっとおおお、Yさんー!全体重で寄りかかっちゃ駄目ー!少しは自分の足にも力入れなくちゃ!」と叫びたくもなるわけで。



数10回目の介助の時は精魂尽き果てて一緒にひっくり返ってしまいそうだった。



が、相棒が現れたので「お!丁度良いところに来た!私が支えているから、この方のパンツ引き上げて!」と必死。



相棒はパンツをあげながら、「じゃあ、映画観に行く?」とほざいている。



交換条件かいーっ。これ仕事だろうよ。



聞いていたお婆ちゃんが「あたしも足が病気じゃなかったら一緒に行けるのになあ。」と言う。



いやいや、何で?足が駄目だから行けないのか?それ以前に一緒に行くなんて言ってないやんか。



そんなことより、もうちょっとリハビリ頑張りましょうね。Yさん、もう少し足に力入るはずだよ!



しかし、Yさんは「えへへへ。無理、無理。」と一蹴してしまう。わーん、無理って言っているうちはずっとこの巨漢を抱えつづけるのね、私。



もちろん、他にも色々あって、明け方迄にはへとへとになった。



ああ、もう駄目。少し横になろうかなあ・・・と思った時に突然病院が大きく揺れた。ぐらぐらっ!



わーーーーーーーっ!と思った。



地震だ。



今ここで地震かよ。



今この状況で来なくたっていいじゃんか。



もう、私、自分一人逃げるのさえも面倒臭いから、このまま死んでもいいやってくらい疲れてるのに。



この揺れがそのまま大地震に繋がったらどうしようー。どんだけの人間を運ばなければならないの。



しかし、その揺れはそんなに長くは続かなかったので、ほっとした。



皆、大丈夫だったー?と点検して回る朝の4時頃。しくしくしく・・・・。





私は見た。



例の巨漢のお婆ちゃんのベッドがもぬけの空である。



ど、どこへ行ったんだ!



ベッドから転がり落ちてしまうほどの揺れじゃなかったぞ。



私は見た。



私の身体と同じくらいの大風呂敷を背負って「やれ、やれ。大地震じゃなくて良かったね。」と戻って来たお婆ちゃんを。



立てるじゃんーーっ!歩けてるじゃんー!しかも、そんな大荷物しょって!



思わず怒鳴ってしまったら、お婆ちゃんは逃げた。



あ!待て!どこに行く!



追い付くのに全力疾走しなければならないほどお婆ちゃんの足は速かった。



やっと捕まえた時には「えへへへ。これだけ歩けるなら一緒に映画行けるよね。連れて行って。」だと。って言うか、走ってるよ、あなた。



でも、見つめ合っているうちに思わず吹き出してしまう。



大笑いした。まったく悪びれてないんだもん。



退院したら本当に一緒に映画観に行ってもいいなあ。



「えー?ほんと?」



うん、行きましょうか。だからリハビリ頑張って下さいねえ。



何とか和気藹々でその場を去った。





しかし、それから数分後、再びお婆ちゃんからナースコール。



「あー、おトイレ手伝って下さいー!」と言われた時には、思わず「ふざけるな。」と言ってしまった。