春の旅3―日生うろうろ彷徨編 | No Fixed Abode

4月某日


18きっぷ最後の一回分で日生へ行った。赤穂からそう遠くはない場所で、やはり牡蠣で有名なところ。まあ、もう4月だし、いくらなんでもシーズンは終わってるのではないかと思う。ならなんで行くのかというと、理由はとくにない。いつも通り過ぎるだけだったので、降りてみたくなったのだ。なんなら瀬戸内の島めぐりもできるし。


近場だからと思ってゆっくりめに家を出たら、日生駅に着いたのは昼過ぎ。島めぐりは当然この時点でアウト。まあいい。観光協会で情報収集しよう。カウンターには職員の方がひとり、女性客に丁寧に説明しておられる。わたしはとくに目的地はないので、ラックから「食べて歩いて楽しむ ひなせまるごとまっぷ」と「備前岡山 日生名物 カキオコ」というチラシを取って行こうとすると、おっさんが「どこで牡蠣食べられるの!?」と大声で尋ねる。接客中なのだが。やだねイラチは。でもまだ牡蠣を食べられるのであろうということはわかった。しかし、いつものことだがわたしの財布には1,000円くらいしか入ってない。というわけで、「まるごとまっぷ」を頼りに、まずは郵便局へ行くべしと、車通りの多い国道をてくてく歩く。


途中、「郷土料理館 もやい茶屋」という標識を見て、お昼はここにしようと決める。しかしその前に資金を調達せねばと先を急ぐ。


郵便局の手前に魚屋さんがあって、道端で炭火で穴子を焼いている。いいなあ。帰りにお土産にしたい。


無事にお金をおろし、郵便局からの帰り道「桜並木→」と書かれた看板が目に留まった。せっかくだから見て行こう、と寄り道する。ゆるい坂道を行くと、また魚屋さんがあって、ここでも穴子を焼いている。そのとなりにいい感じの小さいパン屋さんがある。小腹がすいたときのために、パン買っていくかと店に入る。


あ。と思うより早くトングがその製品に伸びていた。


支払いを済ませて、桜並木へと向かう。招魂山というところ。もう満開を過ぎて散り始めている並木道を登ると、石碑の立つ公園があった。



石段に腰かけて、桜を鑑賞。そして先ほど購入したパンを取り出す。わが魅惑のパンコレクションに、新しいアイテムが仲間入りしたのである。



油パン。なんという変化球ネーミングか。いや直球か? どちらにせよ剛速球な感じ。揚げ油の中威勢よく揚げられているさまを思わせる手書き文字、そして「ABURA BREAD」という表記が、もうなんと申し上げてよろしいやらわからないくらい素敵すぎるパッケージ。帰りの電車の楽しみができたというものだ。まあ要はあんドーナツなんだけどね。気分がね。


油パンをかばんに収めて、来た道を戻る。途中で三人連れの子供の自転車に追い抜かれた。一人の子が前を行く子に話しかける。


「犬でも見に行かんか、ハル」

「え?」

「犬」


なんかいい会話だ。このあたりの子供の娯楽ナンバーワンが「犬を見に行く」ではまさかないと思うが、好きだなあ。


うろうろと路地に入ったりしていて、こんな看板を発見。



おお、そうだったのか。そうかそうか、人生は四十からか。俄然将来に希望が出てきたよ。なんの薬かは存じませんが、ありがとうユーボン。そして、いまこのキャッチコピーを変換しようとしたら、いちばんはじめに「人生は四十雀」って出てきて、ますます愉快になったよ。重ね重ねありがとうユーボン。なんの薬か知らんけど。


ユーボンに感謝の祈りを捧げつつ、「郷土料理館 もやい茶屋」へ。



いいですね漁協直営。期待が高まってますよ(「直営」に弱い)。


ここは食券を買うスタイル。券売機の前でしばし佇む。メニューが多い。刺身メインの「もやい定食」も何種類もあるじゃないか。シャコ天もいいなあ、カキフライも捨てがたい。どうしようか悩んでいたら、「石もち団子はじめました」の貼り紙が目に留まった。よっしゃコレだ、と「もやい定食 刺身+石もち団子」のボタンを押す。


おねえさんに食券をわたし、奥の窓際の席へ。公園が見える。ゲートボールに興じるご老人たちを眺めているうちに、来ました「もやい定食」(1,500円也)。



・・・・・・肝心の石もち団子がよく見えない。小鉢の内容も見えてない。味噌汁の蓋開けてない。こんなことではフードライター失格だが、さいわいなことにわたしはフードライターではない。


ではいただきます。まずは石もち団子から。串からはずし、手前の辛子醤油につけてひと口。熱々、しかも弾力があるおかげで、なかなか噛み切れず口の中を火傷。でもうまい。骨ごと叩いたイシモチに青紫蘇を加えて団子に丸め、串揚げにしてある。青紫蘇の風味がよくてご飯がおいしい。

店内には「ご飯のおかわり3杯まで!!」と貼り紙がしてある。赤字に加えて3杯まで!!」の下には波線を引いて強調。そんなにご飯が食べたい人がいるのだな。でもたしかにご飯のすすむおかずばかりだ。

ご飯がすすむといえば、中央右寄りの小鉢はいかなごの釘煮。春先に、京阪神のお母さんたちが狂ったように炊き、地域通貨として流通しているのではと疑うほどに、ご近所で交換される佃煮である。関西以外の方には理解しがたいかと思うが、いかなごの釘煮に特化したタッパー、その名も「いかなごパック」という製品まで売られているのである。「いかなごの釘煮の保存に最適」というコピーをつけられたそれは、どう見ても普通のタッパーなのだが、ホームセンターなどではうずたかく積み上げられて売られているのだ。わたしは容量1.4リッターのパックを三つカゴに入れた奥様を見かけたこともある。
・・・・・・そんなことはどうでもいいか。食べ終わり、常連らしきお客さんと話し込んでいる店のおばちゃんにごちそうさまでしたと礼をいって、店を出た。


店の向かいに「五味の市」。ちょっと覗いてみるが、閑散としている。こういうところは午前中に来るものだなと思いながら、まだやっている店をひやかしていると、大きな笊いっぱいの殻つきの牡蠣を売っている。

「500円にしますよ」といわれたのでちょっと心が動いた。まだ行きたいところはある。しかし買うなら今しかない。いちおう保冷材はつけてくれるのか尋ねてみた。店のおばちゃん答えて曰く、「牡蠣は保冷剤いらないんです」ってほんまかいな。ま、嘘をつくとも思えんが。これからどのくらい歩くかわからないし、またにしますと店をあとにして、ぐるっとひと回り。と、奥の方になにやら異様な気配。


これは・・・・・・



なにかの冗談だろうか。カキフライソフトというからには、あの横に突き出た物体二つは牡蠣フライなのだろう。どうしたんだ。シェフご乱心か。あれはしかし熱いのが刺さってるんだろうか。だとしたら急いで食べないといけないのだろうな。せわしないのはいやだ。それにしてもかかっているこげ茶色のはなんだろう、チョコレートだろうか。できれば別々にいただきたいものだ。とかすでにアレコレ考えてしまったので、「考えるより食べてみて」というコレはもう食べられない。というか、もう片付けられている感あふれる売り場だわ命拾(以下略)、いやーこれはなんとも残念(棒読み)。あとで調べたら、かかっているのは刺身醤油。いや、牡蠣フライにはソースでしょう!ってそういう問題なのか。それはともかく、食べた人によると「意外にイケる」そうです。興味がおありの方は、ぜひ。


五味の市を出ると、空が曇ってきた。雨になりそう。来た道を戻らずに山沿いの道を歩く。大量のホタテガイの貝殻を重ねてつないだものが、道端にこれまた大量に積んである。牡蠣の養殖に使うのだな。


そのまま道をずんずん進むと国道へ出た。山をほぼ一周したようだ。と、「みなとの見える丘公園 展望台」という標識。見ようじゃないの、と道を折れる。


む。



杖、ですね。ひょっとして険しかったりするのだろうか。ああ、安さに負けて牡蠣を買わなくてよかった。大量の牡蠣を提げて山道を行くのは相当馬鹿げた行為だと思われる。とはいえ登山となると、少々不安。というのも、履きなれたスニーカーは、靴底がべろりとめくれてしまって現在養生中、いま代わりに履いているのは、昔の体育館シューズみたいな底の薄い靴なのである。だが「牡蠣がないだけましではないか」と、われながら意味のよくわからん納得をして、登り始める。


道の両側には桜が植えてあるが、樹高が高いのと、あんまり上向いて上り坂を歩くと後ろにひっくり返りそうな気がして、よく見られない。かわりに目につくのが、



ツツジと、スミレ。


花を愛でながら登ること20分ばかり、展望公園が近づいてくると、黄色い花をつけた木が増えてきた。



ミモザ(フサアカシア)の花が満開。

ということで、展望台からでなく、山道から撮った日生。



黄色いのはそのフサアカシア。


展望台にて、背もたれに意味不明の落書きをされたベンチで一休み。



雨がぱらつきだしたので、下山することにした。ついては筋肉痛がいつ来るのかが現在最も気になることである。なるべく明日来てほしい。待ってるからね。


日生駅方面へ向かううちに、こんな看板発見。



これは行かずばなるまいて。さいわいまだ時間はある。


道中、ねこに胡散臭がられる。



こちらがなにかヘンな動きをしたら、いつでも逃げられる態勢をとられて、ちょっとかなしく思いながらもずんずん進む。

雨脚が強くなりだした。JRの線路を越え、へんだな200mなんかとっくに来てるぞと思いながらもそのまま行くと、工事現場で通行止めしてる。こりゃ間違えたなと引き返そうとすると、工事のおにいさんが「どこまで行かれますか」と声をかけてくれたので、「中南米美術館ってどこですか」ときいてみた。「いや~、ちょっとぼくわからないです」と申し訳なさそうにされた。たぶんこの先じゃないと思うので、引き返します、ありがとう、と礼をいい、来た道を戻る。


だいぶ戻ったところで、「森下美術館→」という看板を発見。名前が違うけど、これだろう。曲がるべきところを曲がっていなかったのだった。



着いた(電柱が邪魔。逆方向から撮るべきであったか)。BIZEN中南米美術館(詳しくは→こちら を)。この外壁は煉瓦ではなく、備前焼の陶板とのこと。雨に濡れた風情がいいわけだ。


傘をたたんで中に入る。入館料(大人700円)を支払うと、受付の方がわざわざ出てきて順路の説明をしてくださり、館長の手作りマップです、と「古代メソアメリカ文明マップ」というものをくださった。


ここは写真OKの美術館。なので、バシャバシャ撮りまくったが、やたらに手ブレ警告が出る。じつは山道でISO80に設定したことをキレーに忘れていた(気づいたのは帰りの電車に乗ってから。不覚)。気に入ったものたちを、いくつか。








どれもこれも、めちゃめちゃかわいい。そしてこの美術館のマスコットがこちら



ペッカリー(ヘソイノシシ)の土偶。ちょっとコワい写真になってしまったけど、フラッシュは禁止なのでお許しください。


着ぐるみ、もとい、休憩中のペッカリー監視員。




チラシによると、カキオコの守護神(季節限定)としてもご活躍なされているらしい。



これはぜひともカキオコのシーズンに来なければ。


館内を二巡ほどしてじっくり鑑賞した。この時間の入館者はわたしひとりで、ゆっくり見られてうれしかった。帰り際に、入口のところで土産を買った。



・・・・・・ペッカリんとう。左は袋に入れてくださったポストカード。エクアドルまで行ったのか、ペッカリー。


受付の方が「どちらからいらっしゃいました?」と尋ねてくださり、少し話をした。展示替えでしばらく休館していて、わたしが訪ねた日が新しい展示の初日だったとか。年に3回ほど展示替えがあるそうで、また来ます、といったら「冬にはカキオコがありますから、ぜひ召し上がってくださいね」とのお言葉をいただいた。さすがは守護神が監視員をしている美術館である。お礼をいって美術館を出た。


もうだいたい見たと思うし、土産も買ったので、帰ることにする。駅で時刻表を見ると、あと5分で電車が来る。なんとまあ、1時間に1本だったとは。着いたときに時刻表を確認し忘れたので、これはほんとにラッキー・・・・・・あっ、穴子! 穴子買い忘れた! ペッカリんとう買って安心してる場合じゃなかったよ。ああ、なんと迂闊な。しかし1時間・・・・・・臍を噛みつつホームへ向かう。


まあ、また訪れる口実ができたのでよしとしよう。次回はカキオコと穴子! ぜったい穴子!この二つが時期的に重なるかどうかは知らんが、そう固く心に誓い、車中で油パンをほおばるわたしであった。