近鉄平田町駅西にある、中央通りから北西に逸れた道を歩く。ルートインやファミリーマートの駅側に位置した車通りが少ない閑静な通りで、道沿いには住宅やテナントが入ったアパートが立ち並んでいる。
そんな景色の中に、電柱の影に隠れそうな、年季の入った『シャムロック』と書かれた小さな看板が現れた。ランチ、コーヒーとも記載されているため、どうやら喫茶店の様だ。奥まった場所にひっそりと建っている店舗には大きな開口があり、そこから覗く店内の雰囲気からも、どことなく、この地域に長年根付いているお店であることを感じさせた。
時間は午後一時を過ぎたところ。遅い朝食を済ませてはいたが、そろそろ軽くお腹に何か入れたい気分になったため、店内に入ることにした。
常連客以外の人が入りづらかったり、居心地が良くない雰囲気だとどうしようか、などと考えていたが、その心配も杞憂に終わる。
入店すると、正面にカウンターが目に入り、その他に、2~4人座れそうな席が4つ程あった。什器の一つ一つに使用感があり、積み重なる時間を感じられる一方で、窓が広く設けられていることもあり、自然光と控えめな照明で店内は明るく温もりを感じる雰囲気だ。
どうやら、老夫婦で営んでいるようで、カウンターの一番奥の席に常連客らしい年配の女性が、オーナーの夫人と話していた。他に客はいなかったが、この老夫婦がどのような人なのか気になり、敢えてカウンター席に腰掛けることにした。
何を注文しようかとカウンターに置かれたパウチされた手書きのメニューを眺めていると、ゆったりとした調子で老紳士のオーナーがおしぼりとお冷を運んでくれた。その様子には、回転数や合理化といった言葉とは無縁で、近年のチェーン店にあるような急き立てられるようなものは無く、寧ろ、ゆっくりと寛いでいってと語りかけてくれるようであった。
その様子に触れ、私も自然と穏やかな気持ちになる。じっくりとメニューを眺め、たまごサンドのコーヒーセットを頼むが、午前でパンが無くなってしまったとの事。残念ではあったが、それだけ好評なものがあるのか、次は食べれればいいなと無意識にまた来店しようと考えていた。
結局、オムそばのコーヒーセットを注文し、料理が出来上がるまで店内を見渡す。その間に、常連のお客さんは帰ってしまった。
一頻り店内を見終えると、今度は老紳士に話しかけたくなった。
「このお店やって長いんですか?」
店主は少し考えるそぶりをして答える。
「もう、41年位になるかな。」
そこから、少しずつ話を行くと注文していたオムそばが運ばれてきた。
料理を食べ終え、食後のコーヒーを飲んで一服していると、ご婦人が厨房からカウンターの方に出てきた。ふと、「常連の方が多いんですか?」と尋ねると、そこから色々と話を伺うことが出来た。
・開店当初からのお客さんが居ること。
・初めの方は不慣れで、忙しくしている最中に話しかけてきたお客さんと喧嘩になってしまったこと。
・コロナが始まり、イオンに新しくカフェが出来たこともあって来客数が減ってしまったこと。
・それでも二人だけなら食べていけると続けていること。
・70歳になったらお店をたたもうと考えていたが、気が付けば75歳になっていること。
など、ほかにも話を伺うことが出来たが、話をしている時の顔は懐かしんでいるようで、それでいて穏やかだった。
そうこうしている内に、常連と思われるお客さんが二組が来店してきた。
穏やかな空気を感じながら、もう少し話に耳を傾けていたかったが、いつまでも居るわけにもいかないため、名残惜しむようにお店を後にすることにした。
次回はたまごサンドと話の続きを楽しみにまた来よう。