「きつねのつき」北野勇作
★★★★☆
ここのところ、北野勇作の小説をいろいろ読んでいこうというキャンペーン中であります。
このブログでは何度か書いていますが、北野勇作の小説は「昔、火星のあった場所」という作品が凄く好きで、何度も読み返しているんですが、最近読み返してみたらやっぱり面白かったので、他の作品も読んでみようと思いこのキャンペーンが始まりました。
で、「昔、火星のあった場所」からスタートして、「クラゲの海に浮かぶ舟」、「どーなつ」ときて今回は「きつねのつき」を読んでみました。
今回読んだ「きつねのつき」は読む前は
3.11以後の世界を抒情的SFで描いているもの
みたいな情報があったんですけど、実際に読んでみると
あぁ、いつもの北野勇作小説やん
って思いました。
解説にも書いてありましたが、単行本の帯には
「3.11後の世界に贈る、切ない感動に満ちた書下ろし長編」
と書かれていたそうです。
しかし、実際にこの小説が書かれたのは震災以前の2009年だったみたいなんで、3.11との関連はないようですね。
北野勇作の小説を何冊か読んでいる人なら、3.11と関係なくこの小説が描かれたと言われ他方が自然に感じます。
これまで北野勇作が描いてきた世界そのままですから、むしろ3.11の影響でこの小説が書かれたって言われたほうが、
ホンマかいな
って思ってしまいます。
物語の主人公は、小さな娘を持つ父親。
どうやら、母親はなんらかの事情で家から出れなくなっている。
父親は娘の春子を子供館に連れて行ったり、保育園の面接に行ったりと忙しそうに暮らしている。
この父親は何かしらの仕事を自宅でしているのだけれど、その仕事が一体どんなものなのか?よくわからない。物語の後半でじょじょにわかってくるんですけどね。
最初は父と娘のほのぼのした小説に見えるんですけど、じょじょに奇妙奇天烈な北野勇作的SF世界に突入していきます。
最初は
ホラーかな?
って思えるくらいちょっと気持ち悪いシーンがドーンって出てくるんですよね。春子が「オバケ、オバケ」ってやたらと言ってて、これは絶対に怖い展開になるな、って匂いがプンプン漂ってるんですけど、実際は結構恐ろしい場面に遭遇するにも関わらず、主人公はあまり同様もせずに淡々としているんですよね。
なんで、読んでるほうもあまり怖くなくて結構冷静に見れるんです。
この辺の不思議な文章の作り方はまさに北野勇作の作品って感じがします。
今まで読んでどの小説も結構恐ろしい設定で、悲観してしまいそうな状況の中でも主人公はいたってのほほんとしているんです。
そののほほんさが北野勇作世界のある種の救いになっているような気がします。
今回の主人公もどうやら普通の人間ではないみたいなんですけど、常にのほほんとしながらも娘や妻のために奮闘している姿にグッとくるんですよね。
で、この小説がなぜ3.11以降の世界を描いたものと言われているのかと言えば、主人公の暮らしている町は丸ごと隔離されているんです。小説の中では特定危険地域と言われています。
この一般の世界から断絶された特殊な世界
というのが、いかにも3.11以降の状況を暗喩しているように見えますが、この北野勇作の小説にはひたすらこの隔離された世界というのが描かれています。
デビュー作の「昔、火星のあった場所」から一貫してこの世界が描かれているので、
実は、全部同じ話なのかな?
って思ってしまうぐらいです。
人間の本質とはなんぞや?
みたいなテーマなんかも一貫して描かれているような気がするので、実はすべてが同じ世界の物語で、角度や視点を変えて延々と同じ物語を描いているのかな?って見方もできるのかな?なんて思ったりします。
この普通の世界から地続きの隔離された異界というのは、やはりタルコフスキーの映画「ストーカー」を思いだしますよね。
この本の解説にもストルガツキー兄弟の小説「路傍のピクニック」(「ストーカー
」の原作小説)が発想の原点にあるのではないか、というようなことを書いています。
で、この「路傍のピクニック」を久しぶりに読み返したくなったんで、本棚を探したんですけど、見つからないんです。
持ってると思ってたんですけど、実は持ってなかったみたいです。
友達に借りて読んだのか、図書館で借りたのか・・・・
とにかく、前に読んだときは買って読まなかったみたいなんで、この機会に購入しようと思いました。
映画の方はめちゃくちゃ好きなんでブルーレイで購入してるんですけどねぇ・・・
「きつねのつき」は北野勇作の小説を今まで読んだことないって方にも凄く入り込みやすい内容になっている気がします。
父と娘のほのぼのした日常を描きつつも、異様な世界へと突入していく感覚が読んでいてとても面白かったので、気になった方はぜひとも読んでみてください。
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