晴れのち・・・ | 鰹節の削り場

晴れのち・・・

   “晴れのち・・・”


「今日は晴れのち雨です。」
ブラウン管の前に立っている女性アナウンサーがそう言い伝えた。
今、雲一つもない晴天であるが、天気予報が言ったことだ。多分のちに雨となるであろう。俺はコーヒーを啜りながら、新聞紙を片手に持ち、そのままブラウン管を見つめた。
「ですが午前中はカラッカラの晴れとなるので、午前中に御洗濯物を干し終えると良いでしょう。・・・・・あ、はい。あ、そうですか。・・・・えー、済みません。天気予報に変更がありました。今日は晴れのち“トマト”です。」そう聞くと瞬時に理解した俺は余りに滑稽で口に入れたコーヒーを噴出してしまった。
彼女は真顔で言ったが、俺には何か悪い冗談にしか聞こえなかった。たしかに今日は丁度四月の一日。だが、テレビ局がこんな報道系の真面目なNEWS番組にこの様な悪い冗談を取り上げるとは全く落ちた物だ。
「・・・えー、どういうことか私自身も良く理解出来ないのですが、どうやら、えー、その、と、“トマト”は後数十分ほどでこの日本列島に雨のように降ってくるということ・・・・だ、そうです。えー、皆さん傘のご準備を・・・・・」
もうそれは偽りだとこのニュースを見ている誰もが判っているというのに何故このアナウンサーは大真面目に取り上げるのだろうか。全く、、、、
そう思っていたのは数十秒前の話。なんと俺の家の窓ガラスが赤い血の色に染まった。その光景は全く持って奇妙、奇怪であった。俺は血流に染まった窓を強く開いた。
バターン
俺が見た光景は、二次元、いや四次元と言った方が良かろうか、現実の物とは思えなかった。
そこには南アメリカ熱帯地方原産の多年草。そう、その蕃茄が俺の頭上から降り注いでいたのだ。俺は窓から身を乗り出し過ぎて二つほど脳天に、当たり砕け散った。俺は丸で血を垂らしたような姿になった。俺はタイミング良く目の前に降ってきた蕃茄を掴み取り齧りついた。これは凄い、本物の作物だ。しかし何故こんな物が雲の上から降ってくるのだろうか?
原因は未だに良く判らないのだが周りに居る者達は喜び、困り、又は俺のように首を傾げていた。
喜ぶ者は大抵バケツを持ってその蕃茄を入れようとする。そうすれば一々ショッピングモールに行って蕃茄を買わずに済むと考えていたのだろう。だが、ほとんどはバケツに入らず、バケツを持った者達の顔面や頭上に当たり、その場で立ち尽す。仮に入ったとしても、約2000㍍の距離から落下した蕃茄は、想像の通り平らに潰れる。だから結局はやるだけ損だ。深く考えない者のやる事だ。
困る者は勿論、大事な重役との面会がある会社員などだ。その上空から飛んできた蕃茄が自分目掛け落ちて来たものならさあ大変。スーツはベチャベチャ、顔はドロドロ。重役と会わせる顔も無いだろう。
さて、如何なものだろう。この木下久京(きのしたきゅうけい)はじっと空を見つめているばかりでいいのだろうか。仕方が無い、大人傘に食品ラップを巻いて出かけるか・・・。
だがブラウン管の向こうで彼女が「トマトの雨降りは、そろそろ終止符をうちそうです。」と言い伝えた。「ですが今度は、・・・た、タモリストラップなる物が降るでしょう・・・。ほ、本当にこれでいいんですか?」彼女は画面外のディレクター含めるスタッフに問いかけた。
そしてその事を聞いてから大凡5分。タモリストラップ(2005年限定版)が降ってきた。今度は食物ではないので私は食品ラップが巻かれたままの傘をさし、外界へとぶらり歩み寄った。外界はもっと混乱していた。そのタモリストラップなる物と先程降った蕃茄の残りを車のゴム車輪が踏み、滑り、そのまま歩行者道路や食堂に突っ込み何人もの人間が死傷する、又は降り注いだタモリストラップなるものが車のステンドガラスに何度も何度も集中的に当たり、終には罅割れを起こし、運転手達の頭や身体に当たり、複雑骨折、堅物が当たったことによる脳出血や、それら症状による死亡などの事件が多発した。いい事ばかりが起こる訳でもない。果てさて、このタモリストラップなるものはあるテレビ番組で貴重な品として取り上げられたのであるが、最早こうなってしまっては之は只の危険物扱いとなる。全く迷惑な物だ。そうこう言ううちにストラップの雨は降りやんだ。そうしたら今度はビル街の中にある大型TVが、丁度天気予報をしていた。
「えー、今度はどうやらお、お、御札が降ってくるようでー――」彼はそれを言うなりそのまんま、後頭部からバタリと倒れ、気絶してしまった。そしてその数分後、本当に降ってきたのだ・・・・・え?福沢諭吉?違う違う。樋口?違う、野口?だから違うって。それは御札は御札でも、御札“チップ”だった。しかもその御札チップ、凄い勢いで降ってくるもんで、分厚くラッピングした傘でさえ、集中的な落下のせいで貫いてしまうのだ。そのおかげで痛いのやらなにやら、食えるのはいいがこれじゃああんまりだ。一気に御札チップは街中を埋め尽くし、何ともう腰の高さまで溜まって来た。身動きが取れない俺や他の住民はなんとか這い上がろうとする。だが御札チップの地盤はゆるく、力をかけるとその掛けたとこが崩れ、そこに沈下する。なので力ずくで出ようとすると、また出られなくなるのだ。ほらあそこの女性を見てみろ「ああ、もう腰まで来てる・・、しかもどんどん身体が沈む・・・・誰か助けて下さい!助けて、助けてよぉ。」そう言ってもう頭まで沈んだ。「助けてよぉ。うわーんおかあさーんたすけてー。」ああもう顔しか見えない。助けたいが今は自分の身も危うい。ここは様子を見よう。「助けてぇ。助けてよぉ・・・・あひゃ、ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。」彼女は御札チップに埋もれてゆく自分を想像してかはたまたこんな恥かしい死に方をする自分が不甲斐なかったと思ったか、急に発狂し、見える顔だけ出して狂笑した、その反動で彼女近辺の地盤は緩み、彼女はもう御札チップの中に埋もれ、二度と這い上がる事はなかった。
しかしじっと彼女の人生の終止符までを見ていたが、これはいかんいかん・・。俺はじっと降り積もるチップが止むのを待った。俺は立ってる状態で既に30分も経過している。他の者なら疲れて御札チップの中に埋もれ込み、彼女のように二度と這い上がれなくなるだろう、そう想像すると俺は興奮したせいか、トランクスの下で射精をしてしまった。ああこりゃいけない。
そして御札チップが私の首の所まで来た時、その雨は降り止んだ。全く日本列島はどうかしてしまった。周りを見渡すと、俺と同じ考えを持つ者達がその御札チップの地中から出てきた。俺も早速、御札チップの地面から這い上がると埋もれて息が無くなった女性のズボンを剥ぎ取り、自分の穿いていたズボンやトランクスなどを放り投げた。だが俺は、目の前にいる、既に心拍の停止した女性の下半身を見て、再び息子が反応をした。どうしても抑えきれない感情を吐き出すにはどうすれば――
俺は目の前の肉片に自らの性器を出し入れした。所謂屍姦という奴だ。噂だけを聞くと吐き気おも催すが、実際体験すると案外悪いもんじゃない。無論、死体だからあまり締りは良くないが、体位やピストン運動のリズムなど自分の思い通りにできるので、俺はこいつだけでも3回出した。周りを見ると、俺と同じ考えを持つ者達がやはり俺と同じように女性の死体を屍姦をしていた。
俺は埋まり込んだ男性の死体からトランクスを剥ぎ取り、そのままそのトランクスを自分の物のように穿いた。やはり前の部分がぬめっとして着心地は悪いが、此の際贅沢を言うのは止めておこう。
そしてさっき剥ぎ取ったズボンを穿くと、俺はとことこと自分の来た道へ戻った。

我輩宅。
――俺は玄関の御札チップを掻き分け、ドアを足で打ち破った。
そして赤いソファーに足を組みまた再びテレビを付けた。もう全てのテレビ局はニュースや番組の企画よりも、天気予報に熱を上げた。24時間全て天気予報となっている。俺は再び天気予報に目を通した。
「えー、ただいまの天気は、晴れのち“ガソリン”です。皆様オイルタンクのご用意を。」そう男性キャスターが伝えたのち、本当にガソリンが降ってきやがった。もう街の者達は慣れてしまったのか、オイルタンクやドラムカンを担いで家の前にそれを置いている。そしてタンクなどにどんどんとガソリン油が溜まっていく。俺にはプライドがあるので例えどんなもんが降ろうが、それを自分の者にしようだなんて思いはしない。ただただ不思議な現象だとほくそ笑うぐらいだ・・・・。
窓がガソリン油で染まった後、ドアの無い玄関からどんどんガソリンが入ってきた。床下浸水ならぬ床下浸“油”だ。俺はもう家の中には居れないと思い、スニーカーから長靴に履き替え、ボロボロの黒いレインコートを着て、外に出た。だが、外に出るとガソリンの雨は止んでいた。なんだ、外に出る事なかったか・・・。
そして再びテレビを点けなおし、床に浸水したガソリン油をモップで吸い上げていると、ブラウン管の男が再び、天気予報を伝えた。
「えー、新しい予報の情報が入って来ました。えー、日本列島の南南西から黒い雲が、物凄いスピードで迫ってきました。えーどうやらその雲の成分としては黒色火薬を主体とする、ニトログリセリン、硝石他多数、と何れも発火性を含む物質があり、既にその黒雲は着火された疑いがあります。そして学者達の考えでは、その雲は着火された衝撃で分裂し、日本列島中心に来た時には雨のように降り注がれるという事で、えーまあとにかく用は『逃げろ』との事です。それでは皆さん私は逃げる準備を致します。それでは皆さんお元気で、う、うわー、火がこっちまで流れ込んだ。だ、だ、だ、だ、誰かた、た、た、たた、助けてくれー」そう叫び彼は全国ネットで焼かれ、爛れ死ぬまでの瞬間を放映され続けた。
・・・・・ふう、火が家にまで入って来たよ・・・・
(最終日5月29日)