チクタクチクタクという音が心臓の音と重なってくる。
いつのまにか暗くなった部屋の真ん中で、かなえはポツンと座っていた。
胃が動いていないかのように、かなえは朝から何も食べずに、そこに座ったままだった。
食事も喉が通らない。飲み物さえ受け入れない。いつまで、私はこの状態を続けるのだろう?
ふいに玄関に顔を向ける。今にもトビラが開いて、たかしの「ただいま」という声が聞こえてくるかもしれない。
そうかなえは思うと、いてもたってもいられなくなった。
バスルームに駆け込み、勢い良く蛇口をひねった。シャワーが音を立てながら床を叩く。
来ていた洋服を次々と洗濯かごに投げ入れ、一糸まとわぬ姿になったかなえは、
熱い湯気の中に身を投げた。
匂い立つ湯気に生気をもらうかのように、かなえは身体を洗い始めた。
ラベンダーの香りのする石けんを直に身体に滑らせていく。
泡立つ前に流されて行くことも気にせず、つま先からかかと、太もも、次々と洗っていく。
目をつぶると、たかしがラベンダーの香りのする石けんで、かなえの身体を洗う姿が見える。
使うのは特別な時だけだった。たかしがこの石けんでかなえの身体を洗うとき、それはsexをする合図だった。
かなえの秘部を知り尽くしていたたかしは、泡立たちの柔らかさまでこだわった。
どのくらいの柔らかさで、どうやって洗ったら、かなえが感じるか。
徐々にかなえを未知の世界へと導いてくれる、魔法の石けんのようにさえ思えていた。
いつも必ず、エクスタシーを感じさせてくれる魔法の石けん。
身も心もたかしと溶け合ってしまったかのような、官能の世界への扉。
夢中になって身体を滑らせていた石けんが、手から滑り落ち、大きな音を立てた。
現実的な鈍い音を出して落ちた石けんは、しばらくシャワーという名の雨に打たれながら、くるくると勢いよく回り、ゆっくりと回転するスピードを下げた。
徐々に長い間使わなかった形跡をかなえに見せつけるように、ひからびた石けんがはっきりと目に映った。
その瞬間、石けんを一人で使う空しさを、かなえは感じずにはいられなかった。