すっかり日が暮れた。冬が近づくとあっという間に太陽が沈んでしまう。

なんとなく憂鬱な気分。

出社時刻を過ぎてタイムカードを押す。ドアを開けると、冷たさを含んだ風が顔を直撃する。

目が覚めた。会社にいるとボーっとしてしまうのに、一瞬にして背筋が芯を持った鉛筆みたいにシャンとする。

まだ、背中を丸めて歩くほど寒くはない。


近所のスーパーによって、夕食の材料を買い込む。

昨日はハンバーグだった。今日は何にしようか。毎日食事を作る事が楽しい。

いや、献立を考えることが楽しい。何も趣味を持っていない私は、料理を作ることが好きだ。

食事を作り、食べてもらうことが好き。

そして「おいしい」の一言を、テーブルの向こうに座っている彼から言ってもらう。

その時の幸福感は何よりも捨てがたいものだ。


結婚して4年。とりたてて特技もない私は、普通のOLになり、取引先の営業の人と普通に結婚し、家庭を持った。

子供はまだいない。

趣味もなく、料理が好きな私は早く子供が欲しいと思っている。年齢も35才。

真剣に取り組まなければいけないと、ずっと考えていた。

だけど・・・


夫は3歳年上の38歳。年齢よりは若く見られるのは、スマートな体系に甘い顔をしているから。

体も健康だし、食欲もある。接待で遅く帰宅することはあっても、平均して夜の9時には帰ってくる。

夫としては合格点だと思う。

寝るときは同じベッドで寝るし、キスもする。朝のいってらっしゃいのキス。

夫婦としては申し分ないんじゃないだろうか。

なのに、この憂鬱な気分はずっと晴れないでいる。


誰も理解してくれないかもしれないけれど、私たちは結婚してから一度もSEXをしていない。

4年間、一度もない。

別にSEXするために結婚したわけではない。


でも、言われた。

「SEXしなくても、僕たちは夫婦だよ。」


私は結婚式当日に、そう言われた。

結婚式の準備に忙しかった私は、生理が不順になり、たまたま当日に重なってしまった。

その時、彼は気にしないでいいという意味で言ってくれたのだと思っていた。

だから、ハネムーン先のバリ島では、たくさん愛し合いたいと、おあずけにしていてごめんね。

と言った。


それなのに、彼は私を抱かなかった。

それから一度も、SEXしていない。


機会を逃したからか、それとも何か彼に問題があるのか・・・。

まだ怖くて聞けずにいる。



きっかけは些細な事だった。

物事の始まりってそんなものでしょう?きっと誰だって経験があるんじゃないかと思う。

ある朝目が覚めたら、帰っているはずの彼の姿が隣になかった。

昨日は仕事が終わった後に会社の友人と飲みに行くと電話があったから

きっと遅くなると思って先に寝たけど、まさか朝まで帰ってこないなんて・・・

今まで飲みに行ってもそんな事は一度もなかった。

だから何かあったんじゃないかととても心配になり、彼の携帯に電話をかけた。

何度鳴らしても電話に出ない。

何度か留守電を入れたけれど、コールバックはない。

昨日一緒に飲んでいた会社の友人が誰かは聞いていなかったから、確かめることもできない。

心配と何かこみあげてくるなんだか厭な気分を抑えるために温かなチャイを作り、砂糖を3杯も入れた。

飲み終わる頃、携帯の電話が鳴った。

着信は彼から。

「ごめんごめん、飲みすぎて友人の家で寝てしまったんだ」

寝ぼけた声の彼からの電話。

そしてその向こうから、シャワーを浴びる音がする。

「シャワーの音がするわね」

「あ、ああ友人が浴びてるんだよ」

「友人って誰?佐々木君?」

「ああ、そうだよ。」

「そう・・・佐々木君の家なの?」

「ああそうだよ。今日はここから出社する。電話しなくて悪かった」

女の直感が働く時はこういう時だ。

きっと嘘だ。

だけど私はそれを問い詰める事はできなかった。

確かな証拠はない。佐々木君に確かめる事ができたかもしれないが、私はそんな

恥ずかしい事がきけなかった。

もし、そうであったとしても、佐々木君は彼をかばうだろう。

もしかしたらすでに口あわせをしているかもしれない。

この日、私はけして終わりのない、果てしない嫉妬心と戦い始めることになる・・・

友人と会う喫茶店に早めに到着するように、家を1時間ほど前で出た。

読みかけの本がちょうど待つ間に読み終えるぐらいの、それぐらいの時間。

大好きな小説家が書いたこの本がきっかけで、私はあることに気づいてしまった。

うまく説明したくない。いや、説明する必要はない。

だって私はこれを読んで欲しいと思ったから。

きっと私と同じような問題で悩む女性って多いはずだから。

その小説は、一組の恋人同士が一緒に住み始め、そして結婚に至るまでの話が書かれて

あった。いわゆる恋愛小説。平凡な小説だったけど、自分の事のように感じた。

結婚するまでは、二人はいつも一緒にいた。

ちょっとでも離れたくない、強く惹かれあう気持ちが、ずっと続いていた。

幸せの絶頂の時に結婚。でも、その幸せも長くは続かなかった。

ある時、彼の浮気の証拠を見つけた女性は、それ以後、彼に触れられるのが生理的に

厭になり、結婚してわずか半年で離婚してしまったと。

その後女性は男性恐怖心となってしまい、恋愛をすることができなくなってしまうのだ。

私がこのつまらない小説の中で、その女性と同じような気持ちになってしまっていた

自分に気づいてしまったのだ・・・。

私が今の彼と付き合い始めて2年と少し。

同棲を始めて約1年。

結婚の話がでないわけではない。だけど、ずっとそれから前に進めないでいる。

なんとなく話が出ても、曖昧にその話をして、するりと違う話題に持っていく。

本来なら喜ばしい話なのに。

30歳にもなって結婚していな私に、周りの目はあきらかに負け犬の目で見る。

家でも会社でも、同じように言われる。「結婚はいつ?」

結婚適齢期が、30年前より少し上になったからと言っても、30歳にもなって

結婚していない女性は明らかに非難の的となってしまうらしい。

だけど、どうしても結婚したくない。

その理由は・・・SEXLESSだからだ。

彼の性格に不満があるわけじゃない。

どうしてそうなってしまったのか・・・・

それはあることがきっかけだった。

(次回に続く)