「それぞれの家族が、すき、のこぎり、やすり、おのをもっていくこと。種などは、あとでくばられる。非常食も、あとでくばられる。乗組員の一人に、着替えの服一着、ブーツ一足、使いなれたなべ一個、楽器(小さくて軽いもの)一つ、絵(額ぶちなし)一枚。これ以外の大きいもの、重いもの、こわれやすもの、くさるものはいいさいもたないこと。本は一人一冊。
(ジル・
P=
ウォルシュ/パティの宇宙日記
)
いよいよ地球が駄目になり、宇宙船に乗り込んで脱出しなければならない時。
本は一人一冊しか持ち込めません。
あなたなら、どの本を持っていきますか?
初めてこの本を読んだとき、自分なら辞典を持っていくだろうなと思いました。
うんと分厚いやつ。
Imidasみたいな、色んな言葉の意味が乗っている本。
無人島に持っていくならどの本を?なんて質問の時にも、私は辞典をまず思い浮かべました。
いずれ終わってしまう物語よりも、始まりもなく終わりもない辞典が良いと思ったのです。
あ行から読むもよし、逆もよし、思いついたページから読むもよし。
お父さんが選んだ本は「中間技術辞典」。
ジョー兄さんが選んだ本は「ロビンソー・クルーソー」。
セアラは「子馬クラブよ、もういちど」。
そしてパティが選んだ本は、何も書いていない真っ白の本。
宇宙船の燃料にも、非常食にも限界があって、生きる星が見つからなければ、全員に配られるのは1粒の薬。
ようやく星が見つかって、開拓が始まったけれど……、小さいパティはもう、雲がどんなものなのかも思い出せない。
植物が育たない。非常食のほかに食べられるものがない。
どんどん不安になり、追い詰められていく中では、なにもかもが当たり前に身の回りにあった頃の物語は何の役にも立たなかった……。
言葉の意味を知っていても、役立つ場所がなければ意味がない。
お父さんの技術辞典はあながち間違いではなかったようで、役に立ちました。
ただの辞典・辞書では駄目なんですね。
無人島で一人きりで生き抜かなければならない時に、言葉の意味を読んだって衣食住を賄うことは出来ません。
うーん……生活百科事典みたいなものがあれば、少しは役に立つのかしら。
前に見た映画で、酷い寒波が襲ってきて、電気もガスも使えず、燃料もなく、燃やせるものをどんどん燃やして暖をとろうと、図書館に避難した人たちが本を燃やしていくシーンがありました。
嗚呼っそれだけはっ!!!
本を愛する人からは悲鳴があがるところです。
この本だけは燃やさないでと、体を張って守ろうとするでしょう。
でもそれを燃やして少しでも暖めなければ、凍死してしまうんです。
薄い本も厚い本も、プレミアつきだろうが世界に1冊しかない本だろうが、どんどん燃やされていくんです。
極限状態においては本だって燃やさなきゃいけないんだなぁ……いやいや、でも本だからこそ燃やして暖をとるって利用価値もあるんだぞ。
なんて、微妙な慰め方をしつつ見たわけですが。
明日をも知れぬ状態にさらされたとき、どんな本を持つことが最善なのか。
この本を読み終えると、「ああ、成る程な……」と納得できるわけです。
「はじめに言葉ありき」と言うアレでしょうか。
昨日、立ち寄った書店で早くも来年度の日記帳を発見して、不意に猛烈に読み返したくなった「パティの宇宙日記」。
初めて読んだときと同じ気分で読めました。
さて。
本は一人一冊しか持ち込めません。
あなたなら、どの本を選びますか?