29.




「緊張するなぁ···僕···変じゃない?」
チャンミンは落ち着かない様子で何度もネクタイを触ってる
「俺の隣で堂々としてたらいいよ」
「うん···」
そう返事したチャンミンの声色は全然堂々としてない
並んで歩くチャンミンをスっと人目の付かない場所へ連れて行くと壁ドンの体勢でチャンミンを見つめた
「何を心配してる?」
「仕事が上手くいかなかったら···とか思っちゃってさ」
俺はチャンミンの頭を優しく撫でた
「仕事の事は心配しなくていい···今日こうして一緒に来てくれてる事が俺にはプラスなんだ」
そう話すとチャンミンはウンと小さく頷いた
「普段通りのチャンミンでいい···俺も普段通り···」
そう言いながら顔を近付けチャンミンの唇にキスをした
「ユノ···ダメだよ」
唇を離すと近距離で見つめる俺にチャンミンがそう呟いて瞳をユラユラさせた
無自覚に誘う瞳···無自覚ゆえに罪深いぞチャンミン
「舌出して···」
チャンミンの言葉を笑顔でスルーした俺はチャンミンに自分の舌をチロチロ見せる
「ほら···チャンミン」
チャンミンは俺が引かないと悟って舌を少し出した
「そう···それでいい」
そう言うと俺はチャンミンの舌を吸って口の中に招き入れた
「んんっ··」
吸う力が強過ぎたかチャンミンが俺の胸元をトントンと叩いた
「ごめん···痛かった?」
チャンミンはウンウンと頷いている
「舌が取れるかと思った」
「あはは···そんな強かったか」
「それに今から人と会うのに···ダメじゃん」
キョロキョロしながら言うと俺に視線を向けた
「そうだけどさ···緊張解れただろ?」
俺の言葉に少し頬を赤らめたチャンミン
「だろ?」
念押し気味に聞くと照れた表情をしてウンと頷いた
「続きはホテル帰ってからな」
そう言って俺は微笑むとチャンミンの肩を抱いて再び歩き始めた
「いらっしゃいませ」
支配人が会釈をしながら俺とチャンミンを見つめる
「チョン・ユンホです」
「社長も先ほどお越しになられた所です···ご案内致します」
俺は軽く頷きチャンミンをエスコートしながら支配人の後に続く
「社長さんと会うんだね」
小さな声でチャンミンが話す
「ここのホテルの社長なんだ」
俺がチャンミンに説明すると«凄いね»って言うかのように目を見開いて俺を見つめた
「お越しになられました」
支配人が奥の個室をノックし扉を開けた
部屋には恰幅の良い男性とそのご令嬢が座っていた
「おぉ···ユンホくん」
ここのホテルのオーナーだ
社長が所有しているのはここのホテルだけじゃない
幾つものホテルやビルを経営している実業家だ
「お待たせしてしまいすみません」
「いやいや···私も今着いたから気にしないでくれ」
社長が笑顔で席から立つ
続いて隣の女性も席から立つと小さく会釈して俺とチャンミンを見つめた
「わざわざ悪かったね」
「いえ···その節はどうも」
俺と挨拶を交わすと社長はチャンミンを見つめ説明を求める視線を俺に送ってきた
「シム・チャンミン···俺のパートナーです」
「初めまして···シムです」
社長はチャンミンに握手を求める
「韓国から?」
「いえ···僕は日本で暮らしています」
社長はチャンミンの流暢な日本語に目を見開いた
「流暢に話すね···日本に来て長いのかい?」
「いえ···まだまだ浅いです」
「いや~···とてもそんな感じじゃないよ」
チャンミンは首を左右に振る
「ありがとうございます···でも本当にまだまだなんで」
俺がチャンミンを見つめ微笑むとチャンミンは照れ笑いしながら俯いた
「ユンホくん···」
社長は隣に立つ女性に目をやる
「またお会いできて光栄です」
女性が笑顔で俺を見つめた
「娘はユンホくんとの再会を心待ちにしていたよ」
社長は嬉しそうにしている娘の姿に目を細めている
「食事をしながら再会を楽しみましょう」
社長が座ると俺たちも続いて座った
テーブルの下でチャンミンの膝に手をやるとチャンミンの手と触れた
チャンミンの手をポンポンと優しく触るとギュッと拳を作って俯く
チャンミンはこの食事会がどういう意味を持つのか悟った様子だった
「ユンホくん···先日話した件だが···」
メインディッシュも終わり残りはデザートといったタイミングで社長が話を始めた
「すみません···今日お会いしたのは改めてお断りさせて頂こうと思ってなんです」
「悪い話じゃないと思うんだがね」
ジッと見つめる社長の目は俺からチャンミンに移る
「パートナーって紹介してくれたが···仕事以外でもパートナーって事なのかな?」
「お察しの通りです」
俺はチャンミンから視線を外さない社長の質問に答える
「シムくん···君はユンホくんから聞いてるかい?」
「いえ···」
チャンミンは落ち着いた声色で答えた
「ユンホくんとは財界のパーティーで何度かお会いしていたんだがね···
あちらは景気悪化でこれから先何かと大変らしいと聞いて業務提携を提案させて頂いてるんだがなかなか良いお返事が聞けなくてね」
「見通しは明るいとは言えないですがまだ考える余地はあると思っています」
俺の言葉に社長は首を左右に振る
「それじゃ世界と戦えないよ」
「分かっています」
社長は娘をチラッと見つめ話を続ける
「このままでは良くない事もユンホくんは分かっている筈だ」
俺は社長の言葉に頷く
「だからと言って社長の案を安易にはのめません···」
社長の娘が俺を見つめ微笑むとチャンミンを見つめた
「シムさん···ユンホさんの将来を考えて頂きたいんです」
チャンミンは黙って社長の娘を見つめている
「業務提携すれば確実に会社は飛躍していくことでしょう···そして明るい未来が待っています
それはユンホさんもよくご理解されていると思います」
「あの···業務提携に貴女が関係あるんですか」
チャンミンが社長の娘に聞くと社長の娘は微笑み頷いた
「業務提携した暁には···
遠くない将来ユンホさんに父の事業を引き継いで頂きます
ユンホさんの会社にとってもユンホさんにとっても良い事だと思いませんか」
一呼吸おいて社長の娘は話を続けた
「世界と戦っていくには父の会社と業務提携すべきです
その業務提携の条件の1つに私をパートナーにするのが条件となっています」
「あの···」
チャンミンが社長の娘の話を止めた
「パートナーにならなきゃいけないって···
僕には取って付けたような条件に見えますし理解に苦しみます
私情を業務提携と絡ますなんてナンセンスではないでしょうか」
チャンミンが首を傾げながら社長の娘に言った
「ナンセンスではなくビジネスだと考えています
昔からこんな手法の結婚ざらにあったのは歴史を紐解けば分かりますよね
そして考えてみてください···ユンホさんDNA···貴方じゃ将来へ繋げないでしょ?
私ならユンホさんのDNAを将来へ繋ぐ事も出来ます」
チャンミンはジッと社長の娘を見つめながら話を聞いていた
「フフ···」
チャンミンがクスクス笑っている
「ユノ···大変だね」
チャンミンはウンウンと頷くと社長と社長の娘を見つめた
「僕には理解できない領域です···だけど一つ分かることがあります」
そう言うとチャンミンは俺を見つめる
「こういうの···一番嫌がるのに···ユノのこと全然分かってないですね」
チャンミンの手が俺の膝に伸びてきて指を絡ませる
「社長···ご心配には及びません
業務提携しなくてもユノなら苦境になっても乗り越えられます···
ご令嬢もユノも愛のない結婚をわざわざする必要はないです」
«ね···»って小さく呟きながらチャンミンは俺を見つめふんわり微笑んでいる
俺はそんなチャンミンを見つめながら絡めてた指にギュッと力を入れた
「業務提携の件···改めてお断りさせて頂きます
お食事とても美味しかったです···お招き頂きありがとうございました」
社長にそう言うと席を立ちチャンミンに帰ろうと目配せした
チャンミンは席から立つと会釈をし俺と一緒に個室から出て行った

「なに?」
帰りのタクシーの中
見つめる俺の視線に気付いてチャンミンが振り向く
「やっぱりチャンミンを連れてって正解だった」
社長と社長の娘の驚いた表情を思い出して思わず笑った
「まさかあんな内容だと思わないじゃん···ビックリした」
「悪かったな」
チャンミンは肩をすくめる
「今どき政略結婚とかある?」
チャンミンの表情は信じられないって表情をしている
「そうだよな···」
俺は頷きながらチャンミンを見つめた
「まぁ···でもさ···ユノの言ってた通り最重要案件ではあったワケだよね
会社の今後の展望と自身の結婚がかかってたんだしさ」
チャンミンは腕組みをしながら言う
「今まで接点はあったの?」
俺はチャンミンの言葉に首を左右に振る
「いや···接点がなかったから事業拡大を狙ってたんじゃないかなって思ってる」
「なるほどね···まぁ···どうしてユノの会社に目を付けたか···理由は2つ···」
チャンミンは指を1つ立てる
「事業拡大をしたかった···もう1つは···」
指をもう1つ立てて俺を見つめた
「娘がユノにベタ惚れしたから···父親は娘に弱いからね」
そう言って微笑んだ
「でも景気の見通しは良くないってのは本当なんでしょ?」
チャンミンの言葉に俺は頷く
「先を見越して手を差し伸べてくれてるのかな···
なんて思ったけど結婚が条件なんてさ···ないない」
チャンミンは手を左右に振っている
「嫌な思いさせちゃってゴメンな」
俺はチャンミンの手を握りながら言った
「大丈夫だよ···僕も言いたいこと言えたし」
「そうだな···珍しくキレてたもんな」
「変な理由でユノを僕から奪おうとするんだもん···僕だってキレます」
そう言うと茶目っ気ある表情でチャンミンは笑った






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