23.
チャンミンの手紙には感謝の言葉と今日の買収発表会見の成功とドンヘと仲良くして欲しいって事が書かれていた
昨日«最後の食事»って言ってたのは始めから今朝は一緒に食べるつもりじゃなかったんだろうな···
美味しそうな朝食がきちんと準備されている
ラップの上から触ってみるとまだほんのり温かい
少し温めて久しぶりに一人でのモーニングを食べ始めた
ベーコンエッグやコーンスープ···サラダにフルーツの盛り合わせ
どれをとっても美味しい···美味しいけど
「寂しいな···」
思わず漏れた心の声
二人でモーニングを食べる事が俺にとって日常化していた事に気付かされる
パクパクと美味しそうに食べるチャンミンが目に浮かぶ
俺の視線に気づき少し恥ずかしそうな表情で俺を見つめるチャンミンが目に浮かんでは消えていった···
もうこの部屋にチャンミンはいないし
チェックアウトするこの部屋で一緒に過ごすことも無い
「どうした俺···」
さっきから頭に浮かぶのはチャンミンの事ばかり
これから大切な会見だって言うのに···しっかりしろ
«♪~»
迎えが来た事を知らせるベルが鳴り俺はスーツケースを持ってドアへと向かう
«行ってらっしゃい»
チャンミンの声が聞こえた気がして咄嗟に振り返った
「いるわけない···」
俺はドアを開け部屋を出た
「···長······チョン社長?」
ハッと我に返った俺の視界に入ってきたのはシウォンだった
「シウォン···来てたのか」
シウォンは俺に深々と頭を下げた
「なに···」
「今回の件···有難うございました」
なかなか頭を上げないシウォンの肩に手を置いた
「シウォン···頭を上げて」
シウォンと視線が合うと俺は微笑む
「俺がしたいようにしただけだから」
俺はそう言うとシウォンの肩をポンポンとタッチし会見に向けて部屋を出た
会見では解体をメインとした買収ばかりしていた会社が今回の買収は再生型買収とあってそこに質問が集中した
将来性のある事業を残し経営陣を一掃させる
ハゲタカファンドの筆頭···血も涙もない冷徹な社長と言われてた俺だったから意外性も話題性もあった
この買収は確実にプラスになる
「社長···株価の反応も良いです」
プロジェクトの責任者が安堵の表情で俺に報告する
「予定通りだ」
俺はそう言うと会見場を後にしリムジンに乗り込んだ
「ホテルに寄ってくれ」
運転手に告げるとリムジンはホテルへと進路を変更した
ホテルに入ると支配人のミノ支配人が俺に気付き近付いてくる
「チョン様」
ミノ支配人は会釈すると穏やかな表情で俺を見つめる
「チョン様···如何なさいましたか···」
「チェックアウトの時に支配人いなかったからさ···快適に過ごす事ができたよ···有難う」
俺がそう話すと目を丸くさせた
「お二人して態々その為にお越し下さるなんて···有難うございます」
嬉しそうにミノ支配人が話す
お二人して?···お二人してって···
「モモも来たのか?」
「はい···お越しになられました」
俺の言葉にミノ支配人は笑顔で頷いた
「いつ?」
「30分ぐらい前でしょうか···」
俺は腕時計を見つめ時間を確認するとミノ支配人に視線を戻す
「何かお困りの事でも···」
そう言うミノ支配人に俺は首を振る
「いや···大丈夫
ミノ支配人···また利用させて貰うよ」
「有難うございます···またのお越しをスタッフ一同お待ちしております」
ミノ支配人は深々とお辞儀をした
俺はミノ支配人と握手をするとロビーのソファに座りチャンミンに電話を掛けてみた
「出ないな···」
コールばかりで出る気配がない
「チョン様···」
顔を上げるとミノ支配人が立っていた
ミノ支配人の隣に居るのは···
俺がミノ支配人をジッと見つめると
「モモ様を乗せたハイヤーです」
そう言ってミノ支配人は仕事に戻って行った
戻って行くミノ支配人の後ろ姿を見つめ俺は笑みを浮かべる
支配人は勘がいいな
ハイヤーからチャンミンの行き先を聞くと俺はリムジンへと足早に向かう
ホテルを出る間際にミノ支配人と目が合った
支配人が軽く会釈している
俺は軽く手を上げリムジンに乗り込んだ
車窓から見える景色···チャンミンと出会った場所だ
「社長···恐らくこの辺りかと思います」
運転手から声が掛かり俺はリムジンから降りる
「社長···あまり時間はございません」
運転手がリムジンから離れていく俺に言う
「分かってる」
振り向き軽く手を挙げると再び歩き始め時計を見て時間を確認した
プライベートジェットで帰る時刻が迫っている
「ここか···」
お世辞にも綺麗とは言えないアパートの一室の前で俺は止まる
表札にチャンミンの名前はない
キュヒョンだろうな···«チョ・ギュヒョン»とあった
インターホンを押すとドタドタと足音が迫ってきてガチャリと玄関のドアが開いた
「わ!!···ビックリした」
目を丸くしたキュヒョンが俺を見つめる
「突然悪いな···」
「よく分かりましたね···入ります?」
俺は首を左右に振る
「ちょっと時間なくて···チャンミン戻ってる?」
キュヒョンは黙ったまま俺を見つめるだけ
「キュヒョン?」
「チャンミンから何も聞いてない?」
「何を?」
俺はキュヒョンを見つめる
「この職業から足を洗うって···さっき出てったよ」
「出てったって···」
「もうこの家には戻って来ないってこと」
俺とキュヒョン見つめ合ったまま少しの間沈黙の時間が流れる
「社長···チャンミンに何か言ったの?」
「何かって···なに」
「この業界から足を洗えって」
「いや···言ってない」
キュヒョンは天を仰ぐ
「じゃあ自分の意志ってことか···」
キュヒョンは困った表情で俺を見つめる
「チャンミンてさ···あの容姿じゃん?···この業界で人気だったんだよね
本人は全く人気とか気にしてなかったけど」
そう言ってキュヒョンは微笑み話を続ける
「べらぼうに高い料金なんだけど引く手あまたでさ
俺···雇い主だからさ···チャンミンがいなくなったら売上げに響くから痛くて痛くて」
キュヒョンは苦笑いしている
「お前が頑張ればいいじゃん」
「俺?!···俺にはシウォンがいるもん
そもそも俺は経営者で身体は売りません」
無理無理って手をブンブン振っている
「シウォンとキュヒョンがパートナーとはね···驚いたよ」
「世間は狭いですね~」
キュヒョンは笑いながら俺に言った
「俺はチャンミンが足を洗うって言って直ぐ家を出ちゃったのに驚いた···巣立っちまった」
そう言ってキュヒョンは肩を落とし俺を見つめた
「チャンミンはあの感じで商売になってたのか?」
俺の言葉にキュヒョンは笑いながら頷く
「面白いでしょ···自分の身体は綺麗なまんま
普通じゃ詐欺だって言われて誰も払ってくれないよな」
そう言って笑う
「女は指で満足してイッちゃう···男はフェラして貰って満足してる···
客曰くチャンミンにされるって事が猛烈に快感があってたまんないらしく
客の中では«チャンミンの客»って事がステータスらしいよ
そのチャンミンと出来ないってなると客は残念がるよな~···」
そう言ってキュヒョンは溜め息をつくと俺を見つめた
「ねぇ社長···ここに何しに来たの」
キュヒョンは俺をジッと見つめたまま聞く
「今朝会わずに別れたんだよ···今さっきホテルに来たって聞いて少し会えるかと思って」
「それだけ?」
キュヒョンは笑みを浮かべた
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