22.
「ごめん」
しゃがみこんで割れた食器を拾っていたチャンミンが俺に気付いてそう言う
「なんでチャンミンが謝るんだよ」
手伝おうと傍に行こうとすると
「ダメ」
そう言って手のひらをこちらに向け俺を制止させた
「来ちゃダメだよ···割れた破片があるかも知れないから」
絨毯の敷きつめられた床を見つめながらチャンミンは言って俺を見つめる
「大丈夫···靴履いてるからさ」
俺はチャンミンとは対面の場所にしゃがみ破片を見つけるとチャンミンが持っている袋に入れていった
赤く腫れた頬が痛々しい
俺はキッチンへ行くと保冷剤をタオルで包みチャンミンの頬に優しく当ててやる
「イタッ···」
チャンミンは痛そうに顔を歪ませる
「嫌な思いをさせてしまった···ごめん」
そう言った俺にチャンミンは首を左右に振っている
「僕が悪いんだよ···ユノに確認しないでドンヘさんに部屋に入って貰ったのが良くなかった」
チャンミンはそう言いながら破片を拾う
「ユノが電話中に内線があってね···ドンヘさんが急用でお越しですって
部屋で待って貰おうと思ったんだよね···勝手なことしてごめんなさい」
「謝らなくていいって」
俺はチャンミンの頬を冷やしながら返事をした
「僕がドアを開けた瞬間ドンヘさんの表情が変わったからちょっとヤバいかもって思ったんだけどね」
チャンミンは痛そうな頬で微笑む
「招き入れたんだし何とかユノの電話が済むまで繋ごうと思ったんだ」
「そっか···」
「ちょうどピザも焼きあがった所だったからピザ勧めたんだけど虫の居所が悪かったようでひと口も食べなかったよ···」
そのピザが落ちている
「ドンヘ···会議中に怒って出て行ったんだ」
俺の言葉にチャンミンは目を見開いた
「キレて出て行ってここに直談判に来たってこと?」
「多分そうだな」
「最悪の心理状態だった訳ね」
チャンミンは苦笑いしている
「ドンヘがチャンミンをベッドルームへ?」
「うん···買収が思い描いてたストーリーじゃなくなってヤケになってたんだと思う
俺の相手しろって言われて···まぁ···ドンヘさんの気が鎮まるなら僕はいいからさ」
チャンミンはそう言うと俺を見つめる
「僕の仕事は娼婦だし」
そう言ってチャンミンは微笑んでいる
「え···チャンミンさ···自分が抱かれる事はしないんだろ?」
チャンミンはウンと頷いている
「抱かせろって言われたから抱かれるのは断ったよ···そしたらマジ切れされて頬を叩かれた···」
そんな場面でもそこは譲らなかったのか
「そりゃキレられるな」
痛い思いしたチャンミンの前で申し訳ないけどそのシーンを想像したら笑える
堪えきれず俺は肩を震わせた
「痛かったのに···」
「ごめんごめん」
そう言って俺はチャンミンをふんわりと抱きしめる
「痛い思いさせて悪かった」
「だからユノが謝る必要ないってば」
クスクスと笑っているチャンミンをギュッと抱きしめ直した
「あ···ヤバい」
ふと時計が目に入り会社に戻る時間が差し迫っていた
「時間?」
「うん···そろそろ出ないとな」
チャンミンは俺から離れるとテーブルにのったままのピザをアルミホイルで包み始めそれを紙袋へ入れていく
「まだ温かいよ···移動中に食べれそうなら食べて···あとコレはカフェラテ」
俺にそっと差し出し少し照れ気味に俺を見つめる
チャンミンのその仕草が可愛くて一瞬固まった
「ユノ?」
首を傾げながらジッと見つめるチャンミンに俺は微笑むと紙袋を受け取った
「ありがとう···車で食べるよ」
受け取った俺を見つめチャンミンは安堵の表情を浮かべている
「要らないのかと思ってちょっとドキドキした」
「なんで?」
「ユノ···固まってたから」
俺は首を左右に振る
「チャンミンの仕草が可愛くて固まってたんだよ」
「可愛いって」
俺の言葉に頬を赤くしている
「偽りなく可愛いからさ···一瞬オトコかオンナか分からなくなるよ」
そう言ってチャンミンを見つめる
「それは褒めてくれてるの?」
俺はチャンミンに頷く
「そうだよ···モモになってるチャンミン全然違和感ないしな···男でも女でも魅力的でミステリアスだよ」
「それは嬉しいな」
チャンミンは微笑み俺を見つめる
「あと···これ」
封筒を差し出しチャンミンに渡した
「開けて確認して」
チャンミンは封筒から紙を取り出して俺を見つめる
「これ···」
俺はチャンミンに頷く
「今日は何時になるか分からないし明日も早いし···顔みて渡せなかったら嫌だから」
チャンミンはジッと小切手を見つめている
「いいのかな···」
ポツリと呟くチャンミンに俺は頷く
「今回の仕事に見合った報酬だから遠慮は無用」
そう言ってチャンミンに微笑むとウンと頷いて俺を見つめた
「怖いぐらいの数字に手が震えそう」
チャンミンの言葉に俺は笑う
「失くさないように財布にしまって」
ウンウンとチャンミンは頷いた
「じゃあ···行ってくるな」
部屋を出る前にチャンミンの方を向くと表情が少し曇ったチャンミンと目が合った
「どうした?」
「一緒に食事する最後の日だったのにバタバタしちゃったなと思って···
ゆっくり食べて欲しかったんだけど」
そう言って苦笑いしている
「まぁ···思いがけない来客はあったけど料理は美味しかったしチャンミンの手料理たべれて嬉しかったよ···ありがとな」
チャンミンの頭をポンポンとすると俺は部屋を出た
やっぱりその日は遅くなってしまいホテルに着いたのは日付けもとっくに過ぎた時刻だった
チャンミンはスースー寝息を立てて眠っている
「ありがとな」
眠ってるチャンミンに囁くとそっとベッドに入り眠りに就いた
翌朝···目が覚めて隣を見ると眠っていたチャンミンはいなかった
ベッドから出てリビングルームへ向かうにつれて良い香りが漂ってくる
朝食作ってくれたのかな···
キッチンを覗いてみるけどチャンミンの姿はない
姿のない代わりにメモ用紙が置いてあった
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