記;20,08,03

 

「博さん」

 ピン芸人のヒロシさんのことではない。まあ、自分はヒロシさんも好きだけど。

「博さん」

 とは、映画『男はつらいよ』シリーズで、主人公寅ちゃんの妹、さくらさんの旦那さんである、前田吟さん演じる「博さん」のことだ。

 自分はこの博さんが大好きだ。できることならああいう、無口だけど愚直で、頭のいいおだやかな人と一緒になりたいと思う。だけど、自分は我が強くやかましく、ナマイキな人間だから、いざ博さんみたいに、自分からすると典型的な「いい人」を目の当たりにしてしまったら、自分の存在が後ろめたく感じられるんだろうなぁと、あきらめている。やっぱり博さんのように「いい人」には、さくらさんのような「いい人」がお似合いなのであろう。

 話が少し逸れるが、また「博さん」に戻るので、少し「博さん」が「いい人」であることを覚えておいて頂きたい。

 ことし四月から、NHKのBSで、夕方、大河ドラマ『いだてん』の再放映をしていた。月曜日から水曜日だった。ちょうどコロナや検察庁法案がどうのなど、ニュースが不穏になり始めた時期でもあったから、夕食の時間帯、我が家の洋間では、ずっと『いだてん』を観ていた。『いだてん』がない曜日はEテレで『おじゃる丸』とか『忍たま乱太郎』を眺めていた。

『いだてん』の再放映が終わったのと同じくらいのタイミングだったろうか。俳優の三浦春馬さんが亡くなった。

 母は、

「まだ売れてないのに……」

 と、不届きなことを言う。母というのは、誇張ではなく、毎日十二時間、韓国ドラマばかりを見て過ごしている人である。だから日本の芸能人の知識は、極めて偏っている。

 自分は、六時台のニュースを観たくない。

 そこで、『おんな城主直虎』のBlu-rayを、夕食のときに観ることにした。自分は高橋一生さんのファンで、だから『直虎さん』は録画して残していたのだ。『直虎さん』には三浦さんが出ているから、母に「紹介」しようと思ったのである。

 そこで「博さん」である。

 柴咲コウさん演じる直虎さんのおじいさんが、「博さん」、前田吟さんなのである。

「博さん」のときは、お父さんが志村喬さんだった。志村さんは大学教授という設定で、これまた温厚な良い役柄だった。そして「博さん」は、高卒とは言えさすがは大学教授の息子、と感じさせるような、学歴はなくとも上品なインテリ風なところがある。

 なのに……!

『直虎さん』の前田吟さんは、どう見ても品のない田舎侍! 設定上それでいいのだけれど……嗚呼わたしの「博さん」……!!

 ちなみに。

『直虎さん』には春風亭昇太さんも出ている。昇太さんが映るたびに、母は吹き出して笑っている……。