(原稿用紙5枚ほど)

 

 何を隠そう我が家は、粗忽者二人の母子で成り立っております。母は八十一歳なので年齢的にも止むを得ないですが、まだ四〇代半ば(過ぎ)の自分も、なんの自慢にもなりはしませんが、大そうな粗忽者でございます。

 去年本放映があった大河ドラマ、『いだてん~東京オリムピック噺~』にまつわるエピソードで、あまりにも我が家の粗忽さを現わすのにふさわしいことがいくつも思い起されたため、まとめて記事にすることにしました。

 

 まずは斎藤工さんのこと。

 斎藤工さんは、おととしの朝ドラ『半分、青い』にもご出演されていました。なので母は観ているはずなのです。

 あ。ちょっとお伝えしておかなければならないことを思い出しました(こんなふうに、いつも自分はそそっかしいのでございます)。

 母は、ハードディスクとDVDと、毎日一日十二時間は、韓国ドラマばかりを観ている人です(年齢的にも長く眠れないようなので、その分寝そべってドラマを観ているのです)。なので、韓国の役者さんにはとても詳しいですが、日本の役者さんにはあまり関心がなく、覚えようという気がないようなのです。日本のドラマで見るのは朝ドラと大河くらいです。なので、それぞれの主演クラスの役者さんは覚えても、その他の人のことは覚える気もないようです。

 閑話休題。

 我が家では『半分、青い』も見ていたので、母は斎藤工さんを知っているはずでした。

 なのに去年、『いだてん』を観ていたとき、ロサンジェルスオリンピックのエピソードの、かなり後半になったタイミングで、

「この『かっちゃん』の役の人、誰?」

 と母は訊くのです。

 自分は、斎藤工さんだよと答え、『半分、青い』に出てたやんと言いました。母はただ、

「ふーん」

 と言っただけでした。

 

 ことし、春からBSで『いだてん』の再放映が始まり、夕食後に洋間で二人で真剣に観ています。

 まだ斎藤工さんが出ない、四三さん編の頃、自分は、

「わたし前、斎藤工さんと松坂桃李さんの見分けが付かんかったことがあるねん」

 と、恥ずかしそうに言いました。現にその話を友人にしたら、

「全然違うやん!」

 と、軽く叱られたことがあるのです。

 すると母は、

「わかるわかる。どっちも濃いもんなぁ」

 と共感してくれたのです!

 なので母もようやく斎藤工さんのことをちゃんと覚えているんだなとも安心していました。(松坂桃李さんは、朝ドラ『わろてんか』に出ていたので、母は記憶しているようでした)

 

 しかし!

『いだてん』がまーちゃん編になり、夢のロサンジェルスオリンピックの放映が、かなり佳境に入ったとき、洋間のソファに並んだ母が、また自分に尋ねたのです。

「かっちゃんの役者さん、誰?」

 去年自分に訊いたのと、ほぼ同じくらいのエピソードのときでした!

 自分は、つい先日、松坂桃李さんと似ているという話をしていたじゃないかとも言い、去年もこのタイミングで同じ話題になったことにも言及し……二人で大笑いしたのでありました。

 

 さて。母は去年の『いだてん』で、四三さん編よりもまーちゃん編のほうが好きだったようでした。日曜日の夕方にBSで観て、土曜日の午後、地上波の再放映まで観ていました。当時自分は喫茶店の客寄せ占い師(?)をしていて、土曜日の午後は家にいませんでした。

 ある土曜日のこと。

『いだてん』の再放映が終わったあとに、『いだてん』に出ている役者さんたちが出るトーク番組があったそうです。母はそれも熱心に見たようでした。そして、

「阿部サダヲさんが……」

 と言うべきところを、何をどう思い込んだのかわかりませんが、

「アベサダさんが……」

 と、嬉しそうに話すのです!

 でも、ま、自分にしても、そのときになって初めて、

「あ。それであの芸名なのか!」

 と妙に得心したのではありますが。内心、「でもそれはあんまり言うたらアカンことやろう」という気持ちもあり、苦笑をしていました。

 

 ことしの春から始まった『いだてん~オリムピック噺~』の再放映では、母は四三さん編も、去年よりは熱心に観ていました。

 これで少しは日本の役者さんにも詳しくなったかな、と……安心したというか喜んでいるのであります。以上。