わたしは大学生のころ、友だちからの強い勧めで、たばこを吸うようになった(ほんまかいな!)。
 あれから……計算がニガテなのだ。電卓を使おう……27年だ。『禁煙セラピー』を読んで、3,4年の禁煙がつづいたことはある。精神状態の良い冬に一時期たばこをやめるけれど、心がもやもやとし始める春になると、無性に肺は煙を求め、また吸い始めてしまったことが、これまでに何度かあるから、冬に禁煙をすることは、どうせつづかないからやめておこうと決めている。ついでに書くと、これまで医療機関で禁煙外来を2度受けた。2度とも、わたしはうつの症状がひどくなった。だからあれはもう二度としない。
 
 あれは、眉村先生が初めてがんになられ、文章教室をお休みされていた年の冬のことだった。
 その年もわたしは、季節限定の禁煙に成功した。
 折しも2月。バレンタインデーの直前のことだった。その時点で1週間しか禁煙がつづいていなかったのに、
「たばこ、やめれたぁ!」
 とはしゃいでいた。
 
 そこで。
 眉村先生へ、くだらないシャレのつもりで、シガレットチョコレートを送った。駄菓子屋さんで売っている、子どもがおとなのまねをしてたばこを吸っている気分を味わうためのもの、のような、30円とか50円とか、100円もしないものだ。
「たばこやめました\(^o^)/」
 ヘタクソな字で書き添えたことを記憶している。(ただのアホです、はい)
 
 すると翌月、03月14日。配達日指定の小包が届いた。眉村先生からだった!
 あけてびっくり。

 
 いくら普段チョコレートをあまり好んでは食べないわたしでも、GODIVAの名前も、それがどれだけ高価なものかも知っている。
 驚いて、あまりに有り難く、とてももったいなく、
「あれはシャレですよ!」
 と、慌てふためいて、お礼のはがきを送った。
 
 ほかの人からもらったチョコレートなら、チョコずきの親戚か友だちにポイポイあげるのだけれど。
 GODIVAだし、眉村先生からだし。自分で大事に食べた。
 これだけは、とても美味しかった。
 
 後日、GODIVAの店を見つけた。
 セコいなぁとは感じたのだけれど、先生がくださったもののお値段を確認したかった。
 4,500円と書かれていた!
 シガレットチョコレートのお返しなのに……。
 
 ということを、大学時代からの女友だちであるほっきーに話した。すると彼女は、昔から変わらない、福岡なまりの口調で、
「眉村先生っちゃあ、奥さんとラブラブやったとやろぉ? 奥さんから、バレンタインにもらったら、ちゃんとこげなことせんといかんでーて、教えられちょったんとちゃうん」
 と笑った。そうなのかもしれない。
 
 しかしこのことがあってから、わたしは先生へチョコレートを送れなくなった。なんか、高いチョコレートを催促するみたいな後ろめたさを感じたのだ。
 だけど、わたしよりも先生を好きな受講生の女性がおられて、ほかの受講生がいない隙に、上手く先生へバレンタインのチョコレートをお渡しすることができたのを見た。確かその年は、講座のある日が、ちょうど02月14日だったはずだ。
 02月は、うるう年ではない限り28日、7の倍数だから、02月14日が土曜日ならば、翌月の14日も土曜日になる。その日もわたしたちは文章教室だったが、前の月にチョコレートを渡した人へ、先生は特別何も言われなかった。帰りの電車でその人とその話題になって、
「おうちに帰ったら先生から届いているかもしれないですよ」
 とわたしは言った。
 やはり、そうだった。
 
 GODIVAのロゴを見るだけでも、この一連のできごとを思い出すのである。