私がまだ重心施設(重症心身障害児(者)施設)にいた頃のこと。
ある子が私の担当になった。
慣れた相手にならYes・Noの意思表示はしっかり出来る
だから関係性の中で、その子の好きな事などを知っていれば十分に会話は成立するし、周りもそれで十分だと思ってきた…らしい。
ただ、私が担当になって、その子との信頼関係ができたのと同時に課題を与えられた
その子が持っている力を発揮できるようなコミュニケーション手段を考えよ
どうしたらいいものやら。でも、私達がまだ見つけられていない可能性がこの子の中にあるかもしれないもんね!頑張る!
それから数ヶ月かけて、その子オリジナルのコミュニケーションボードを作りました



①まずはひたすら1対1で喋って、その子の興味のある事・話したい事をリストアップ
②リストアップした事柄のシンボルマーク化(文字の理解は難しいので、話したい事柄を分かり易いマークで示します)。これもモデルはあるけれど…この子が理解出来て、反応出来なければ意味がないので、私の下手な絵を駆使してどれだったら分かるかを本人に確認して進めて行きます。
③シンボルマークを使った会話の練習。いくつかあるシンボルマークの中から自分が話したい事柄のシンボルマークを選び、そこからその子が本当に言いたい事に辿り着けるように会話を進めていく。
④コミュニケーションボードの試作。この子が喋りたい頻度の高いものと、生活上必要度の高いもの(医療ケア等)で色分けし、今何を求めて居るのかを最初に二択で選べるようにする。配置も工夫し、出来るだけ少ない動きの中で、本題に近付けるようにする。
⑤コミュニケーションボードの完成。この子の場合、話したい事柄にすごく幅があり、今後も世界が広がっていく感じがヒシヒシとしたので、もし新たな関心ごとが出てきたら直ぐに追加が出来るように小型のホワイトボードで作りました。各シンボルマークに磁石を付けて、左半分には生活上必要度の高いもの・右半分にはこの子が興味関心があり喋りたい事柄のシンボルマークを提示します。
最初の頃こそ左右どっちに喋りたい事があるかなどの質問をしていたけれど…慣れてくるとコミュニケーションボードを見せただけで眼球が動くようになり、「この事について話したいんだー」と意欲を示してくれるようになりました。
試行錯誤を繰り返して、いっぱい喋って、やっと出来たコミュニケーションボード

最初に始める時は、この子にどんな可能性があるのか分からなかったけれど、担当になって1年でたくさんの事を教えてくれました
出るわ出るわ


正解になかなか辿り着けないでいると「話を途中でやめるなー、正解まで辿り着けー」と何度もプンスカされました
私の顔を見る度に「話の続き!」と催促されました
でもね、このことぜーんぶ、こっちが聞かなかったら出てこなかった言葉達
私にとってはものすごく貴重な宝物
プンスカしちゃうくらい喋りたいと思ってくれたこの子の頑張りも宝物
聞かなければ、この子の成長の枠を私達が決めてしまっていたかもしれない
Yes・Noだけでもコミュニケーションは成り立つし、生活はちゃんと回っていく。きっとこの子もこんなことを伝えようと思った事もなかったんだろうな、でもちゃんと思っていたし感じていた
こっちは、双方のコミュニケーションを取っていたつもりでも、一方通行だったよね
そりゃあこっちのタイミングでしか声をかけないのだから一方通行だよね
現場にいるとついつい忘れちゃうんだよね

こんな大事な事に気付かせてくれた、この子と、まだ未熟な私にやらせてくれた上司、相談に乗ってくれた大先輩に感謝だなぁ
今もこのコミュニケーションボードを使ってくれている現場の人達にも感謝
そして、最近私も声を出せなくなって伝わらないもどかしさを痛感した
違うよ、そうじゃないよ…と悔しかったり惨めだったり…
そして声を出せなくなると途端に声をかけてもらう回数も減る
「誰か話を聞いてー。」、「YesでもNoでもない今の状態を聞いて欲しい。」そう思っていたなぁ
最近も、喋りにくくはあるけれど…ちゃんと伝わるし、ちゃんと聞いてくれる。
それって人としてのベースの部分
私が私らしくいられるすごく大事なポイント
だから、もしこれから意思表示が難しい人と会う機会があったら、少し心に余裕を持って耳を傾けてもらえたらなぁと願ってしまう
どんな人でもちゃんと心があって、それが通じ合えた時は、双方に一種の感動の様ななんとも言えない達成感や喜びが生まれる
ありがたい事に、私はどちらの立場でもその喜びを感じさせてもらった
今伝える事に不安や不便さを感じておられる方が、少しでも安心して過ごせる様に何かできる事はないかなぁ


今の私にはこうしてBlogで打つ事しかできないけれど…
自分にできる事があれば、見つけていきたいし、教えてほしいです
やれる事は限られているし、できる事しかできない(当たり前だけど…)
だから、できる事をやろう
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