かがこなだけどこなた→かがみ。
無意識にこなたが恋する乙女モード、かがみ内心かなり悶えてる。みたいな。
むぅ。鏡の前でしばらく格闘してるけどなかなか寝癖が直らない。
耳の近くでぴょんと外に跳ねた髪の毛。大して目立つわけじゃないけど見つけてしまったら気になってしょうがない。
「こなたお姉ちゃん、そろそろ行かないと遅刻しちゃうよ」
「えっ、もうそんな時間?」
朝の時間ってまさに光陰矢の如し、ってちょっと違うか。
寝癖のことは諦めて振り返るとにこにこと笑顔のゆーちゃんが鞄を差し出してくれた。
「ん、ありがと」
「ずっと鏡見てたけどどうしたの?」
「いやぁ、なんかこの辺がすごい気になってさ」
ちょいちょいと指指すと寝癖ついてるね、とゆーちゃんは手を伸ばして触れる。軽く押さえてみたけれど手を離したらまたぴょこんと出てくる。
「ちょっと頑固なんだよね」
「でもこのくらいなら目立たないから大丈夫だと思うよ」
「かなー。でも一回見てしまったら気になって気になって」
ちらり鏡に目を向けるとやっぱり跳ねた髪。未練がましく櫛を通してみたけど効果はなし。
まあそんなこと気にして遅刻するわけにはいかないよね。鞄を持ち直して回れ右。
「お姉ちゃん最近可愛くなったよね」
ドサッ。唐突な言葉に鞄を落として足に直撃。中身がほとんど入ってないから痛くなかったけど。
「えっ、な、なにかわいいって……?」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんは元から可愛いから自信持っていいよ」
にこっと笑顔を向けられてもどんな反応を返せばいいんだろう。可愛いなんてバイト以外ではほとんど言われないし慣れてない。
というか突然その発言に至った理由を知りたいんだけどゆーちゃんはサムズアップするだけで。照れ臭いけどまあ誉められてるから喜べばいいのかな。
お父さんが遅刻しないようにリビングから声をかけてくれたので鞄を拾ってそそくさ玄関に向かう。
隣で上機嫌なゆーちゃんに話しかけるのはなんとなく危険な予感。外は少し肌寒くなってきたし顔の火照りを冷ますのにちょうど良いかもしれない。
私は朝が苦手なので通学中は基本的に無言でとにかく足を前に進めるという作業を繰り返すだけという感じ。たまにゆーちゃんの話に相槌をうつけどほとんど内容は聞いてない。それでも気にせず笑顔で会話を続けるゆーちゃんに萌える。
バス停近くになると人が増えてきてうんざりする。学校の制服やスーツを着た人たち、みんな似たような格好で無数の話し声に頭が痛くなってくる。
この人混みのどこかにかがみとつかさがいるはずでそれだけが救い。私もゆーちゃんも背が低いので呑まれないように手を繋いだ。
「こなたお姉ちゃん、先輩たちいたよ」
ゆーちゃんの声に視線を向けると二人の姿を見つけた。私たちを探してそわそわ顔を動かしているつかさと、仏頂面で背筋をピンと伸ばして直立不動なかがみ。
ちょっと待たせて申し訳ないなと思いつつ、かがみとつかさらしい佇まいに自然と頬が緩む。
くっと手を引くとゆーちゃんも合わせて駆け足で二人の下へ向かった。
「二人ともおはよー」
「かがみ先輩つかさ先輩、おはようございます」
「こなちゃんゆたかちゃんおはよう」
「おす」
にこにこ笑顔で返してくれるつかさに対してぶっきらぼうなかがみ。遅いって怒ってるのかな。
「遅かったじゃない。またネトゲでもして寝坊したのか」
「いやいや最近はお弁当作ったりとかで朝忙しいからちゃんと起きてるよ」
「そういえばこなちゃんここのところずっとお昼チョココロネじゃないね」
「まあね。かわいい妹の分と一緒に自分のも作ってるからね」
ね、とゆーちゃんに笑いかける。いつもありがとうお姉ちゃん、その言葉と表情だけで早起きする理由に十分だ。
「三日も続けばいいと思ってたけど、意外と長続きしてるじゃない」
皮肉めいたかがみの台詞に少しむっとする。まあ以前の私を思えば反論の余地はないけどさ。でも最近は自分でもちょーっとは変わってきてるつもりなんだよ。
抗議の視線を向けているとかがみは困ったような顔をして頬をかいたあと、謝罪するように頭を撫でてきた。
お父さんみたいなぶきっちょで力強いのと違って、そっと優しく触れられて暖かいものを感じる。
お姉さん気質だからかわかんないけどこういうのが自然で、上手で。むすっとしてた気持ちがどっか飛んでっちゃって、ずるい。
しばらく心地よさに身を委ねてたけど、はっと我に返ってみると二つの視線が私たちに向けられていた。
「本当にお姉ちゃんとこなちゃん仲良いよね」
「とてもお似合いですよね」
そんな嬉しそうにまっさらな笑顔で言われても。からかわれるよりはマシかもしんないけど。
「邪魔しちゃ悪いから先行ってるね」
「え、あ、ちょっとつかさっ」
「こなたお姉ちゃん、遅刻しないように気をつけてね」
「ゆーちゃんそれどういう意味?」
私とかがみの言葉空しく二人は人波に消えていった。
しばらく唖然としてたけど気を取り直してかがみを見る。ほんの少し照れ臭いのを誤魔化しつつ。同じようにかがみが軽く咳払いした。
「とりあえず遅刻するわけにはいかないし行きましょ」
すっとかがみが歩き出し反応が遅れて半歩後ろについていく。
身長は平均だけれど私からすれば十分大きく、背筋を真っ直ぐ伸ばして堂々としてるかがみの後ろ姿を見つめていた。
格好良いななんて思って、ちょっと早足で並んで盗み見た横顔は綺麗で、きゅっと胸の奥が締め付けられる感じ。
意味分かんないけど何かしないと叫びそう。目についたのは前後に揺れてるかがみの右手。
手、繋いでいいかな。
「そういえばこなたさぁ」
「ふぁっ!?な、なに?」
触れようと伸ばした手を慌てて引っ込める。振り向いたかがみは不思議そうにしていたけどすぐ会話を再開した。
「結局今日はなんで遅くなったのよ。朝はちゃんと起きてるんでしょ」
「あー、うん。その、寝癖を直してたら遅くなっちゃって」
「寝癖?」
ちょいちょいと未だ跳ねてるであろう耳の横あたりを指す。確かにとかがみは頷いてから続ける。
「でも言うほど目立たないからいいじゃない」
「いや見つけてしまったら気になってしょうがないし」
「まあ多少みっともないかもしれないけど……」
意味ありげに呟いたので小首を傾げてかがみを見上げる。いたずらっぽく笑ったあと、今度は乱暴に撫でてきた。
ちょっ、身長縮む。はなせー。
「あんたも結構可愛いとこあるじゃない」
上機嫌なかがみは無防備な笑顔見せて私に言う。かがみのほうが可愛いよ、なんて赤い顔して言ったって全然効かないんだろうな。
次第にかがみの手つきは優しくなって、つかさとゆーちゃんもいないししばらく恥ずかしいのは我慢。
バイト先では飽きるくらい言われてた言葉に今さら動揺してしまうのはなんでだろう。
