実は私、あの著名な実践マーケッターである神田正典氏がインタビュアーをつとめる「ダントツ企業実践オーディオセミナー」という対談CDを毎月購買しています。聞けるときもあれば、なかなか聞けないときもあるというところが、正直なところです。

たしか、昨年2010年9月だったと思います。なにげにその対談CDが納めてあるラックを整理していたときにたまたま目に飛び込んできたものこそ、
「軍神、復活!岡田武史、フロー経営を語る」という会員限定に送られてくる岡田監督と神田氏の対談CDだったのです。しかも収録は2007年12月。この3年間未開封だった自分にも驚きましたが、W杯終了後に、当時語っていた内容が聞けることにも若干ワクワクしながらその内容を聴いてみました。

サッカーの話題は時折出てくるぐらいで、フロー(※)な状態をメインに話が展開されていきます。その中には、
・実績もないコーチの抜擢の裏側
・日本代表就任以前のブラックパワー的な全て自分でおこなわないと気がすまない監督時代のこと
・現在は間逆の委任型でのリーダーシップ論
・マインドマップとサッカーとの相性
・美意識と価値観について
などが収録されており、2010年W杯の結果や采配の背景が垣間見れる内容でした。

※スポーツ選手において突然試合の流れが変わるというときに、フローに乗る、「流れに乗る」「ゾーンに入る」という表現をしますが、何かのきっかけで時間の感覚がなくなって、そして物事がスムーズに起こり始め、それで自分もしくは組織の実力以上の結果が、すばやく、短期間の間にでてきてしまう。そんな状態のことを指します。


とにかく勉強熱心でサッカー以外のこともよく勉強されているということが分かりましたし、そうでなければ代表の監督などが務まるはずがないということも良くわかりました。選手が主体性を持って取り組める環境はこのときから準備されていたことが良くわかります。さらに言うならば、岡田監督は戦略家だったということです。

W杯前まで親善試合4連敗と絶不調だった岡田ジャパンは、なぜ本番で見違えるように強くなったのでしょうか? 

各情報誌をはじめ、ジャーナリストの方たちは、5月27日のスイスでの選手ミーティングが発端で自主性が生まれ、団結力が芽生えたのがポイントだと言っています。私もそのように感じます。


「あれをきっかけに選手が個別に話すようになった」。主将のGK川口が振り返るのは5月27日夜の選手ミーティングです。韓国に0―2で敗れ、スイスに入った。チーム状態はどん底。話し合いは前線から積極的にプレスにいくかどうかで攻撃と守備の意見が対立。穏やかな雰囲気ではなかったが、腹を割って話したことで選手は目覚めた。自分たちでやらなきゃいけない。以降、ピッチ上でも意見をぶつけるようになった。

その2日後、イングランド戦前日の非公開練習では選手が口々に意見をぶつけた。岡田監督が紅白戦を止め、スローインからの戦術を指導している時でも、選手の激しい言い合いは止まらない。関係者が「非公開にしたいのも分かる。誰も監督の話を聞いていない」と振り返るほどだった。

意見の割れた守備戦術は、プレスに行けないところは中盤でブロックを作るというやり方で落ち着いた。岡田監督が阿部をアンカーに起用しただけでは機能しなかったはずで、選手たちが世界相手に泥臭く戦おうと誓い合い、意思統一をしたからこその新システムだった。守備的な戦術で初戦のカメルーンを下すとチームは自信を持ち、乗った。
対話は団結力を生んだ。岡田監督は選手起用も冷徹に決断し、サブにはほとんど声もかけない。サブ組は精神的に追い込まれているが表だって不満を言う選手がいない。全員で勝利を分かち合えているからだ。「出ている選手と同じくらいサブの選手も称賛されていい」と川口選手は言っています

そして、あの記憶にも新しいデンマーク戦。
開始直後のピンチの連続。ダブルボランチが機能していないことを開始5分でいち早く見抜いたのはベンチの選手だ。その7分後、岡田監督が3ボランチに戻すよう指示した。歴史的な決勝トーナメント進出を果たした指揮官は「選手たちがピッチ上で、自分たちで対応してくれた」と語った。
チームは成長し、一つになっていた。デンマーク戦後にできた選手の輪。それが今回のW杯での日本の強さの象徴といえます。デンマーク戦でみせた戦い方はまさにその通りで、フィールドに立つ選手同士がコミュニケーションを取り合い、監督の指示を受けずにポジションを修正した。
目的が相手チームに勝つということを考えたときのフィールドの選手全員の共通意識がそこにあらわれていたのだと感じます。

これら一連の出来事は、選手がw杯での勝利を真剣に考えた。まずは決勝トーナメントへ出るために自分たちができることを冷静に判断したのだと思います。
本来、ずっと大事にしてきた「つなぐ」サッカーをとおすのか?
守備を固めてとにかく点をとらせないサッカーをとおすのか?

それぞれのポジションのリーダーからもいろんな意見が出てきたことでしょう。
でも、目標が「勝利」に定まったことで、やるべきことが全員の腹と意識にすっと落ちたのではないかと思うのです。これは時として、素晴らしいパフォーマンスを発揮します。
そして、そんなチームに創り上げた岡田監督は素晴らしいと思います。

そんなところから、対話重視で主体性を求めるリーダーとみることができるわけです。ここでいう対話とは、先にも記載したダイアローグ「自分の考えをはっきりと述べつつも、自分の主張や立場に固執することなく、自分と相手の思考のプロセスに注意を払いながら、その意味を深く探求することによって相互理解と共通の理解を見出すための会話の方法である」ということであり、自己の内省をともなう意見の交換であり、コミュニケーションです。

いいかえれば、どちらの主張が正しいかを争ったり、相手を説得するのではなく、率直に意見交換をすることにより、共通理解を探し出すことだと言えます。
まさに本当の気持ちのぶつかり合いがそこにあったわけです。

続く

では、暗黙知を形式知にするにはどうするか?ということですが、

・明文化(言語化)することと
・言語化が難しい場合はダイアローグ(対話)すること


がポイントになります。

では、ここで一般にある営業の仕事を形式知化してみましょう。

■初回面談からクロージングにいたるプロセス
 訪問のアポとり
~面談
~自分の情報開示・ラポール
~お客様のニーズ把握
~会社・商品・サービスの紹介
~提案書作り
~提案のプレゼンテーション(見積り含む)
~購入決定
~納品
~請求
~入金確認
~アフターサービス

■面談のアポとり
 ・見込客リストの収集
   見込み客リストの要件を決める
    業界別・職種別・ライフスタイル別など
    事例で共通する課題を持っている企業(例 営業アポイントを効率よく取りたい)
 ・アポとり
   電話をかけ、相手企業の了解を得て、資料を郵送。
   資料がついたタイミングで、ご提案のために訪問したい旨を伝えアポをとる。
 

■初回面談
 面談5分前には、訪問先に到着し、余裕を持って商談・説明に臨めるようにする。ここで、遅れたりしてしまうと50%:50%の関係での商談が一気に崩れてしまいます。主導権も決定権もすべて先方にいってしまいます。もちろん事前に訪問先企業について、情報を収集し、整理しておくことも重要です。
・業界動向と理解
 ・事業モデル、収益モデルの理解
 ・事業環境の把握
 ・事業戦略の把握


■徹底したヒアリング
・ ラポールの形成(仲良くなる共通点の会話)
・ ヒアリングシートの作成
・ 課題がなにかを探る、または想定してきた課題と合致するようならすかさず提案する。


■提案
・ 提案書にて、課題が解決される旨を提示
・ 他社の導入事例や成功事例など
・ 想定の課題と異なる場合は、提案書はみせずに、簡易的に次回お持ちする内容について触れる。
・ 価格も明示する。積算見積もりが必要なものは、持ち帰りで後日提出。


もちろんこの後の流れも設計し明確にしていきます。大半の仕事はこのように言語化できるのです。少なくともこうして形式知化されたやり方にそって仕事をすることで、ある一定レベルの成果は生み出せるようになります。
これが規律(ルール)ということです。特に、仕事をこれから覚えようとする新入社員や、人事異動で他部門から転入してきた社員を短期間で一定のレベルに戦力化するには有効です。しかし、ここからが難しいところなのです。


一定レベルにまで早期に到達すれば、「勘がはたらく」、「センスの問題」、「ひらめく」などの形式知化が難しい部分である「創造性」の部分が醸成される形になるわけです。
もちろん、ここには経験も必要になります。例えば、業界事例のストックからの仮説、お客様の言葉尻からの本気度、「検討します」のレベル、価格交渉の度合いなどです。



 また、暗黙知の形式知化ということを進めることで、なかなか形式知化できない、「暗黙知」をあぶりだすことができるようになります。先にもあげたように、業界事例のストックからの仮説、お客様の言葉尻からの本気度、「検討します」のレベル、価格交渉の度合いなど、明文化できれば問題ありませんが、なかなか明文化できないこともありますよね。



その際に有効なのが、ダイアローグ=対話です。
ダイアローグと記述してありますが、日本語では「対話」と訳されます。しかし、これだと「向かい合ってする会話」という意味となってしまいそうですね。では、対話とは何かということですが、会話が親しい人間同士が、分かり合うために話をすることに対して、対話とはもともと分かり合えないもの同士が、お互い説得しあい、意見をすり合わせてくことです。



ダイアローグとは、「自分の考えをはっきりと述べつつも、自分の主張や立場に固執することなく、自分と相手の思考のプロセスに注意を払いながら、その意味を深く探求することによって相互理解と共通の理解を見出すための会話の方法である」と表現されます。いいかえれば、どちらの主張が正しいかを争ったり、相手を説得するのではなく、率直に意見交換をすることにより、共通理解を探し出すことだと言えます。



それこそが、他のチームとの違いを生む本当に重要なポイントなのです。その重要性を認識することで、自分たちなりの形を早く身につけ、チーム内での暗黙知をいっそう磨くことを促進する効果があります。


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個人的にはジーコ監督が追い求めたチーム作りには、共感する部分があります。

個性や創造性を尊重し、選手がみずから行動をおこす環境を提供する。そうしないと、なかなか上には上がっていけません。
本来で言うと、自由の責任は重たいものです。指示されたほうが楽ですからね。ジーコ監督のときは、メンバー全員にその想いが浸透していなかったのでしょうね。


会社組織やグループもそうだと思います。もし、あなたがリーダーなら、創造性のあるメンバーは●●くんだなぁとか●●さんだなぁと頭に浮かんだり、彼は・彼女は指示待ちメンバーだなぁと思い当たるメンバーがいるかもしれませんね。



続く

クリエイティブなジーコ監督


それでは、ジーコ監督はどうだったかというと、いろんなコラムや評価をみても日本代表に「自由」をテーマにしていたと言われています。さらに、ワールドカップの本選出場を決めるも、期待された成績が残せなかったため、その評価は低いものとなっています。



辞書の引用では、自由とは「他のものから拘束・支配を受けないで、自己自身の本性に従うこと」となっていますが、この良く引き合いに出される「自由」とうテーマは大きな勘違いで、ここでの自由とは創造(クリエイティブ)を指していたのだと思います。


ジーコ監督が行ってきたことや考えていたことを私なりに振り返ってみたいと思います。
紅白戦や練習試合などで個々の選手が状況判断を繰り返すうち、隣接するポジションの2人の間で自然と連携が深まり、意思疎通ができるようになります。


次に彼らと第3の選手との間でも連携が深まり、プレー時の判断とそれを受けた選手同士の自発的なコミュニケーションにより、個々の選手の判断力自体も上がってきます。
こんなことを目指したわけです。


「連携が深まる」とはどういうことかというと、人間の動作と判断には無限のバリエーションがあります。サッカーはシンクロナイズドスイミングなどとは違い、単に11人が「合わせる」だけでは駄目で、相手のプレーとその場の状況によっても選択するプレーは随時変わってきます。相手は引いて来るのか押し上げてくるのか、ボールを持っている選手はパスかドリブルかシュートをするべきなのか?ボールを持っていないプレーヤーはスペースに走るのかボールを受けに近寄るのか、その際DFラインは上げるのかカウンターに備えるのか、FWはファーに走るのかニアに入るのか……ここに挙げたのは、個々の局面で選手が行う判断の一例です。フィールド上には無限の組み合わせがあるわけです。

ですから、選手間での「意思疎通」や「共通意識」というものが非常に重要になってくるわけです。同じメンバーが何を感じているか?どんなプレーをしたいのか?どのようにフォローしたらいいのか?
いわゆる暗黙知(あんもくち)というものをお互いに理解しあうということです。



※ 暗黙知(あんもくち)は、言葉で表現できるような知識の背景として、暗黙のうちに「知っている」「分かっている」という状態があることをいう。人間個人の心理的作用を指すが、共通の経験をした人間集団が共通して持つ暗黙の知識をいう場合もある。



■暗黙知の一例が自転車


たとえば自転車に乗る場合、一度乗り方を覚えると年月を経ても乗り方を忘れないものです。ちなみに私ははじめて補助輪をはずしたときに自転車ごと倒れて骨折しました。
自転車を乗りこなすには数々の難しい技術があるのにも関わらず、その乗りかたを人に言葉で説明するのは難しいですよね。本能的に知っていることで、実現できることと理解をしてもらえばOKです。



これが会社や仕事に置き換わるとどうなるか。


じつは暗黙知はよくあります。例えば営業の仕事。
今にして思えば、13年前に最初に入社した会社は、リクルートの代理店として、採用のコンサルティングや求人広告、企業広報のパンフレットやWEBサイトの受注などの営業職で勤務していましたが、まさに暗黙知の塊だったように思います。
スーパー営業マンの先輩ばかりで、それぞれの特徴を生かして、クライアントから仕事をいただいている、そんな背中をみながら見よう見まねで我々も電話がけをしたり、提案書などをつくってみたりしていたものです。ある程度やる気もあり、頑張れる人はここからでも十分に伸びることは可能です。むしろ、そうやって這い上がったほうが地力は確実についてきます。


職人の世界をみるともっと分かりやすいです。師匠のワザを見て盗むことで、技能が伝承されてきました。または、修行に次ぐ修行を重ねて、師匠に追いつこうとするのです。まさに日本の文化的背景や歴史が物語っています。



暗黙知をマニュアルという側面からみてみましょう。
販売・サービス系の仕事やアルバイトが多い職場では、仕事の内容がマニュアル化され、標準化されているケースが多いですね。最近のホワイトカラーが多い職場でも、パソコンへの情報の入力や、伝票処理の流れなど、その手順書や手引書が作られているケースも多くなってきました。しかし、新入社員が入ってきたときや、中途採用や人事異動で新しいメンバーが組織に加わったときに、「あなたの仕事は○○ですよ」「これを読めば、全体の流れはつかめますよ」という書類には残念ながらなかなかお目にかかりません。


そして実は・・・
マニュアルにあること以外のことが意外と重要だったりします。

弊社では、仕事の流れや関係を新しく担当した方に再度マニュアル化してもらうようにしていました。そうすると、自分でも仕事の整理ができるようになりますし、引継ぎが発生するときにすぐに使用できるツールになるからです。

実はこの「暗黙知」という存在が、日本代表の躍進を妨げたのだと思います。前述のトルシエ監督は「規律」を浸透させました。これはすなわち「暗黙知」を徹底して、ルール化して見えるようにしたわけです。すなわち『形式知』というものです。


一方でジーコ監督が追い求めたのは「自由」という名の「創造性」だったはずです。選手自らが考えて、フィールドで表現することだったのではないかと思います。
この創造性というテーマは非常に重要で、今日の企業経営者が社員に対して求める素養のTOPキーワードにもなっています。


しかし、この創造性には、一定のルールがあり、一定のレベルに達してこそはじめて発揮されるものだと思います。
一流の選手として名を馳せたジーコ監督、ブラジルの代表選手のときは黄金のカルテットと呼ばれた中の一人でした。選手当時に当たり前に思っていたこと、やってきたことと、当時の日本代表のレベルに大きな隔たりがあったのだと思います。トルシエ監督のときに一旦醸成されたかのようにみえた「形式知」はもろくも崩れ去っていたわけです。


これはサッカー大国ブラジルで醸成された文化がもたらした思考と、サッカー新興国の日本がもつ、まさに「暗黙知」の差だったように感じます。



続く・・・