心に溜めてきた我慢 | 続・花咲か人生

続・花咲か人生

たった1度の人生、大いに花を咲かせたいもの。
波乱万丈でも、何もないよりはきっと楽しいはず。
最期に「我が人生に悔いなし」と言いたいと思っている私です。

先週末は、ピートの誕生日だった。


お互いの誕生日は、

2人で外食するのが、


結婚当初からのお決まりだった。


ただ、子供が来る週末と重なったときは、


その前後どちらかの、

平日の夜に行くことにしてた。


今年は、子供が来る週末だったから、


週明け、火曜日の夜に、

って話になってた。



そこへ、美香さんから、


「感謝祭の連休で、仕事も休みだから、

 ランチでも行こうよ」


そう誘われて、

彼女の都合のいいのが、その火曜日だった。


その日、旦那さんのマイクは、

昼間から友達と出かけて、


夜も遅くまで帰って来ないらしい。


美香さんは、普段、

月-金で働いてるから、


平日ランチをする機会は滅多にない。


だから、ぜひとも出かけたかった。


ただ、夜も1人っていうのを聞いてて、


”夕方には帰ってください”


とは言いづらかったから、


『美香さんも一緒に、

 家で、誕生日のお祝いしてもいい?』


ピートにそう聞いた。


誕生日とか、クリスマスとか、

お祝い事にはまったく興味のないピートだから、


『もちろん!』


反対するわけもなく、

快い答えが返ってきた。


それでも、

ちょっと申し訳ない気持ちの私は、


『じゃ、ピートの好物、

 何でも作ってほしいもの作るから。^^』


そう言った。


『やったぁ!!!

 外食より、全然いいよ。^^』


子供のように、ピートは喜んだ。



そして、美香さんが来る前に、


家事や夕飯の支度も

ある程度済ませておいた。


ランチに出かけて、買い物して、


帰りにピートをピックアップして、

家に帰った。


『誕生日なのに、ごめんね。

 邪魔してない??』


美香さんは、

ちょっと心配そうに言った。


けど、あまり気にしてないと思う。


気にしてたら、その日に来れないだろうし。(;^_^A


でも、私もピートも、

全然何とも思ってなかったから、


『一緒にお祝いしてくれて、ありがとう』


って、喜んで言った。



それが問題ではなかった。


美香さんが帰るまで、

私たちは楽しく3人で喋ってた。


美香さんを見送ったあと、


ピートが、そういう雰囲気に持ち込んだのを、


私が拒否してしまったのが

大問題だった。



別に嫌だったわけじゃない。


嫌ではないけど、確かに

したいという気持ちもなかった。


祥ちゃんを好きになって以来、

一度できなくなってしまった人と、


以前と同じように、

したいと思う気持ちまで戻る(戻す?)っていうのは、


私にとって、なかなか難しいことだった。


それでも、

ずっと一緒に暮らしてきたんだから、


時間をかければ、少しずつ、
できた溝は埋められるものだと信じたい。


ただ、それが、

今すぐ、は無理なだけで・・・。



誤魔化すような感じで、

笑って、切り抜けようとした。


いつもならすぐに諦めるところだけど、

その日は、そうはならなかった。


きっと、ずっと、

心に溜めて、我慢してたんだろう。


『・・・どうして?』


ピートが肩を落として、

俯き加減で聞いた。


『・・・え?』


聞こえてないわけではないけど、

思わず、聞き直してしまった。


『どうして、僕を拒否するの?』


クッと言葉に詰まってしまった。


そんな私を無視して、

ピートは続けて言った。


『僕たちは夫婦なんだよ?』


『なんで、僕に触れられるのが嫌なの?』


『どうして、そんなに僕を嫌うの??』


立て続けにピートが言って、


『嫌ってなんかないよ』


最後の質問を、慌てて否定した。


”何でいきなり、そんなこと言い出すの?

 最近は、ずっと仲良くできてたのに”


私は、頭の中が真っ白になった。


でも、”いきなり”だと思ったのは、

私だけだった。


ピートは、ずっと1人で悩んでて、

今まで言い出せないだけだったんだ。



『嫌ってなくても、好きじゃないでしょ』


私は、ピートに、

”I love you”とは言える。


それは、家族に対しても使う言葉だから。


はっきりした愛情表現に聞こえるけど、

そういう曖昧な意味にでも使える。


ピートは、そんな曖昧な答えを

望んでたわけではないけど、


私には、それ以外に何も言えなかった。


すると、


『もちろん、咲が僕を好きで、

 大切に想ってくれてるのは分かるよ。


 でも、それはもう、

 男と女の間の”好き”ではないでしょ・・・』


核心に触れられた。


自分でもよく分からない自分の心。


ピートのことは好きだけど、

確かに、家族愛になってるのかもしれない。


それでも、


”夫婦ってこんなもの”


そんなふうに思い始めてて、


”これでいいんだろう”


私なりに前向きに考え始めてた。


なのに、

なんで、こうなっちゃうんだろう・・・。



どう言えばいいか、

頭の中で、いろいろ考えようとするけど、


なかなか言葉が浮かんでこないし、


浮かんできても、

選ぶべきじゃない言葉に感じてしまう。


だから、何か言おうとするんだけど、

結局、言えないままで、


声にならない溜め息になってしまう。



『咲に拒否されるたび、

 嫌われてるんだと思って、


 心が苦しいんだ』


ピートが、顔を歪めて言った。


『心が痛いんだよ、咲』


すごく悲しげな目で、

私を真っ直ぐに見て、繰り返した。



”私は、こんなにも、

 ピートを傷つけてたんだ・・・”


胸がキリキリと痛んだ。


それでも、私には、

返す言葉が見つからなくて、


ただ、黙って、

ピートを見つめてることしかできなかった。